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(まただ。しかも同じ場所……)
次の日の帰り道、涼介が気配を感じて振り返ると、全く同じ場所に彼女は立っていた。火曜からなので、これで3日連続。
そもそも、と涼介は20秒前の記憶を辿る。あの場所に始めから彼女は立っていただろうか。いたら怖いと思って多少目を逸らして歩いていたのは事実。でも、気付かないなんてことがあるだろうか。まるで自分が通り過ぎてからフッと姿を現したかのような、そんな気さえしてしまう。
恐怖を感じつつも、怖いもの見たさで彼はまた観察してしまう。今日は気温も上がってそこまで寒くないはずなのに、昨日と同じコートをしっかり着て、ボタンも留めている。
(大きいマスクもそのままだし、風邪で寒いのかな? いや、それならそもそもこんな道路に立ってる必要ないよね……)
冷静に分析しようとするものの、彼女の雰囲気に呑まれ、涼介の思考はうまくまとまらない。自分が生きている世界、そこに暮らす自分や親や友達。普段一緒にいる人間と、やっぱり何か致命的にズレてるように、彼には感じられた。
その時。
(あ……)
彼女がこちらに向きを変える。涼介は、初めて彼女と目が合った。
黒いと思っていた瞳は、光を感じない薄灰色。たとえカラーコンタクトでも、こんな色は表現できないのではないか。真っ直ぐに自分の方を見てくるその不気味な視線に、彼は心臓を掴まれたかのようにその場で固まってしまう。
「…………っ!」
深呼吸をして、地面を強く蹴り、家へ駆けだす涼介。追っかけてきやしないかと不安になって一度振り返ったが、幸い付いてきていない。
それでも速度を緩めず、飛び込むように家に入り、彼女の生気のない目を思い出しながら彼は急いでゲームのスイッチを入れた。
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