彼女はどこかズレている

3/4
前へ
/4ページ
次へ
 *** 「あのさ、バカなこと聞くんだけどさ」 「何だよ」  翌日、金曜日。休み時間に、涼介は前の席の大樹(だいき)に訊いてみる。真っ直ぐな性格で、思ったことは正直に答える大樹なら、ちゃんと答えてくれる気がした。 「口裂け女っていると思う?」 「はあ? 口裂け女って、あの耳元まで口が裂けてるっていう妖怪? いないと思うよ。ネットでも実物とか一度も見たことないもん。作り話だって」 「だよな、いやあ、友達が見たっていうからさ! 変な話だよなあと思って!」  架空の友人のせいにして、涼介は笑って見せる。しかし、冗談で片付けて安心するつもりだったのに、「じゃああの女の人は……?」という疑問が、指に刺さった棘のように彼の頭に残った。 「えっと、口裂け女、口裂け女、と……」  放課後、涼介は図書館に寄って妖怪辞典を調べる。 「やっぱりこのくらいしか書いてないなあ」  解説の前半を読んだ後、彼は落胆を込めた独り言を漏らした。  大きなマスクをしてるというのは一致しているけど、ああいうマスクをしている若い女の人は他にもいる。それ以外に決定打になりそうなものはなく、断定は難しそう。「目がしばらく合うと、ターゲットにされる」といった記述もあり、彼の不安と恐怖を余計に煽るばかりだった。  その代わり、「口裂け女に出会った時は」という対処法のページが目に留まった。  口裂け女は、以前整形手術を受けた際、執刀医が多量のポマードを付けていて、その匂いがとても嫌いになった。そのため、ポマードと3回唱えると口裂け女が嫌がり、逃げられるらしい。  また、べっこう飴が好きなので、投げて取りに行った隙に逃げることもできる、と書かれていた。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加