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「あのさ、バカなこと聞くんだけどさ」
「何だよ」
翌日、金曜日。休み時間に、涼介は前の席の大樹に訊いてみる。真っ直ぐな性格で、思ったことは正直に答える大樹なら、ちゃんと答えてくれる気がした。
「口裂け女っていると思う?」
「はあ? 口裂け女って、あの耳元まで口が裂けてるっていう妖怪? いないと思うよ。ネットでも実物とか一度も見たことないもん。作り話だって」
「だよな、いやあ、友達が見たっていうからさ! 変な話だよなあと思って!」
架空の友人のせいにして、涼介は笑って見せる。しかし、冗談で片付けて安心するつもりだったのに、「じゃああの女の人は……?」という疑問が、指に刺さった棘のように彼の頭に残った。
「えっと、口裂け女、口裂け女、と……」
放課後、涼介は図書館に寄って妖怪辞典を調べる。
「やっぱりこのくらいしか書いてないなあ」
解説の前半を読んだ後、彼は落胆を込めた独り言を漏らした。
大きなマスクをしてるというのは一致しているけど、ああいうマスクをしている若い女の人は他にもいる。それ以外に決定打になりそうなものはなく、断定は難しそう。「目がしばらく合うと、ターゲットにされる」といった記述もあり、彼の不安と恐怖を余計に煽るばかりだった。
その代わり、「口裂け女に出会った時は」という対処法のページが目に留まった。
口裂け女は、以前整形手術を受けた際、執刀医が多量のポマードを付けていて、その匂いがとても嫌いになった。そのため、ポマードと3回唱えると口裂け女が嫌がり、逃げられるらしい。
また、べっこう飴が好きなので、投げて取りに行った隙に逃げることもできる、と書かれていた。
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