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プロローグ
いや、俺が主人公ってのはどうなんだろうね。
もう十分暴かれたと思うんだけど。
やっぱり世の中で求められるのは、若者たちの熱い物語だと思うんだよ。
俺は若いころから熱血タイプじゃないし、スポーツはしてたけど特に語るほどのドラマティックな事件はなかったからね。
もう30も大きく超えたおじさんは一応個人病院の院長ではあるけど、大した金持ちでもないよ?
需要もないでしょ。
俺みたいな愛想のない人間は、ネットに顔を出してあれこれするなんてありえないし。まぁ、関係者の間では『スポーツ選手の駆け込み寺』なんて言ってもらえているのは嬉しいけどね。
殿前の選手たちは医院にいる俺しか知らないし、知らせる必要もないから、あえてもう一つの職場については開示してないしな。
彼らには彼らの物語があって、一生懸命な高校生を俺も全面的に応援してやりたいと思ってるよ。
あっちの続編のほうが、いいんじゃない?
え、イケオジ枠?
何それ。池に落ちちゃった人みたいだね。
まぁいいや。
ちょうど、ここ最近一番の問題児も無事に大学進学を決めたところで、少しなら時間も取れるから。
今までのことを話せばいいなら、できなくはないよ。
なんか子育てを終えた気分だよね。経験ないけど。
適当に、俺の周りの人のことを話せばいいの?
そうだなぁ…
実は既婚者だとか、そういう話を求めてるんじゃないんだよね。
え、それも必要?
いや、別に隠してないよ。
ただ、専属医として関わっている高校生たちに対して、自分の家族構成をわざわざ言いふらす必要もないだろうと思ってるだけで。酒井監督は知ってるしね。
職場のみんなにも、多くはない友人たちにも、普通に知らせてる。
医者が指輪をしないのは、俺としては当然と思ってる。小さい子を診ることもあるし、他人の身体に触れるときに装飾品ってのはちょっとね。
妻も同じ理由で普段はつけてないよ。
元々俺たちは、ペアルックとか思いつきもしないような人種だしね。
おそろいとか、まったく興味ないんじゃないかな。
婚約指輪は「いらない」の一言だったし、結婚指輪も同じだったな。
なんだかんだで結局式も挙げてないから、必要な場面もなかったしね。
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