まずは…昔の俺のこと?

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俺は、「過去の栄光」みたいなのを好きではないし、チームプレイなんだから別に俺の功績というわけでもないと思っていて、自分から高校時代のことを人に話すことは基本的にない。 でもやっぱり、俺の名前や在籍期間を聞いて「え?」って顔をしてくれると、嬉しいものだったな。 当時のメダルや記念品を見せびらかすようなことはしてないが、院長室の机の引き出しにしまってある程度には、大切な記憶だ。 殿前高校は、俺が卒業した後しばらくして伸び悩むようになり、当時の監督は退任していた。そして低迷期のサッカー部を引き受けたのが、酒井監督。 俺が出会った頃、元私立強豪校をどう率いていくか、監督は悩んでた。 もともとは高校の教員をしていた人で、事情があって早期退職したんだそうだ。いくつかの都立高校を都大会の上の方まで引っ張り上げた経験があって、殿前に監督してきてくれないかって誘われたんだって。 『古豪復活をめざすなら、自分みたいな人間を監督に据えるべきじゃない』なんて自分で言っちゃうくらい、情の深い「先生」タイプの指導者だ。 殿前高校が、何を思って酒井監督に就任を打診したのか、俺は知らない。 でも、おそらく… 時間をかけていいから、生徒たちの心を大切に育ててほしいと願ったんじゃないだろうか。 都立高校の部活が、私立と競うのはそもそも厳しい。 地方からは時折公立高校が出てきたりもするけれど、まぁ、何かの拍子にって感じが多い。東京は特にどの競技も激戦区だから、都大会の三回戦に残ればニュースになるくらいだな。
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