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その状況で、酒井監督は教員時代に複数の高校を都大会の準決勝や決勝まで引っ張り上げた。
部活のために進学したんじゃない生徒の集団を率いて、ゼロから練習を積み重ねて私立とそこまで競ったんだ。
すごいことだと思う。
殿前も、現状の新入生は都立の生徒とそんなに大きく変わらないから、酒井監督の手法を欲しいと思った上層部の気持ちは、理解できるんだ。
戦績を上げるためだけなら、他にいくらでもやりようはある。
まずは金をかけて設備を整え、軸になる中学生を何人かスカウトしてくればいい。さらに名前が売れている名物監督を据えて、そのネームバリューで新入生を集める。
私立なんだから、マスコミだって味方につけてうまいことやればいいんだ。
でも、殿前高校はそういう手法を取らなかった。
その代わりに特進コースを設置して、偏差値にして10以上高い層を一クラス分取り込むという驚きの手段を取った。
部活動推薦クラスはまだ残っているけれど、その対極に勉強に集中する層を集めたんだ。
多様性の時代だ。いい判断だと思う。
サッカーや野球や、ブラスバンドや…
いろんな分野で全国大会というものは存在しているけれど、もうそこで活躍したから将来が確約されるような時代じゃない。
本人たちも、そのスポーツだけじゃなくて、ちゃんと勉強もして人付き合いもして、きちんとした社会人に育ちあがった方が世界が広がるだろうと思う。
同じ高校に、自分たちよりもはるかに勉強ができる同級生が存在している。
世の中には、もっともっと頭のいい人がいるんだろう。
そんなことを、高校時代を部活漬けで過ごす層の生徒たちも知っておくといいと思う。
自分たちがスポーツに打ち込んで、もしかしてプロになれたとして。
引退した後、あいつらと社会で競って生きていくのか。
だったら、セカンドキャリアをちゃんと考えないと…って、深まっていくはずだ。
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