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酒井監督は迷っているけれど、俺は温かく見守っていけばいいと思ってる。
だから、相談を受けてもそんなに深刻にならずに、酒井監督の愚痴と言うか迷ってる気持ちを吐き出させて聞いてやって、最後は現状維持をお勧めしている。
「いいんじゃないですか。サッカーを好きな高校生を育てて、いつかその子たちがまた大人になって監督みたいな人になっていったら、この国のサッカー小僧は幸せだと思いますよ」
なんて、よく言ってるな。
本心だ。
全国大会でいい成績を残すことだけがサッカーじゃない。
俺はたまたま自分を使ってくれるチームに巡り合えて、それなりに動けたから結果を出すことができたけど、俺が一人でできたことじゃない。
入学した時点で既に優勝候補だった先輩たちに引っ張り上げてもらって、かわいがってもらったからうまくいっただけ。
頂上を取らなくたって、サッカーが楽しいっていう気持ちを共有できれば、いいじゃないかと今でも本気で思ってる。
殿前高校が、どうしてもサッカー部に、野球部に全国を狙ってほしいと考えているのなら、違う方法を選んだだろう。
我が母校ながら、いい学校運営をしていると思うんだ。
いい大学に行くことだけを目標にする必要はない。
いろんなタイプの生徒を広く集めて、お互いに影響を与え合って育っていけばいい。
実業団やプロで活躍する選手が、いつか生まれるかもしれないけれど、その間にたくさんの殿前出身者が、チームスタッフとして現場で活躍することになるだろう。
マスコミにもいくかもしれないし、法律家や経営にいく人間だっているだろう。医者を目指す子もいるかもしれない。
世の中のいろいろな業界に、高校時代を共にした仲間がいる。
素晴らしいことだと思う。
監督の教育方針には賛同するところも多くて、それ以来何年も俺は殿前高校サッカー部に肩入れをし続けているというわけだ。
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