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それはさておき、殿前には元気な新入生が入ってきて、グラウンドは例年になくにぎやかだ。
「大塚先生、テーピング巻きました!」
ジャージ姿の女子高生が手を挙げて俺を呼ぶ。
春の恒例となった、マネージャーへの応急処置研修。殿前サッカー部の一年マネージャー全員と、希望する選手を集めて、主にテーピングの巻き方を指導しているんだ。
もちろんボランティア。
突き指とか、まっすぐな箇所はそんなに難しくないが、サッカー選手が傷めるのはだいたい膝か足首だ。これはちゃんと理屈を覚えて練習しないと、固定するのは難しい。
始めの頃はちょっとした事でも俺がグランドに走ってたが、さすがに二重生活を始めてからは仕事に影響が出るようになったから、マネージャーを育てる方にシフトした。
殿前高校というところはちょっと変わっていて、運動部のマネージャーの立ち位置が普通じゃない。
各部の中にマネチームを内包していて、チーム運営のかなり深いところまで受け持ってる。部によって若干違いはあるけれど、サッカー部に至っては試合中に監督がマネに戦術を相談したりすることもある。もちろん、それだけの知識や力を持ったマネが存在しているということだ。
元々スポーツドクターをめざす子や、スポーツチームのスタッフをめざす子も集まってくる高校だ。そういう進路を考える子にとっては、チームのマネージャーという立場で経験を積ませてもらえることは大きい。
十年位前に特進クラスを設置した殿前高校は、その後順調に学校運営を展開していて、今では大学進学率もかなり高いし、いわゆる上位の大学にもかなりの人数が進学しているようだ。
その代わり…運動部の方は、どこも長い低迷期を継続している。
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