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ただ、サッカーをすることは当時から、俺にとって一番楽しいことだったんだ。
手が器用だと、子供のころからほめられることが多いだろ。
字を綺麗に書けるとか、絵が上手とか。
箸が上手く使えるとか、楽器ができるとかだってそうだ。
早熟な子ほど、大人からほめられてもっと上達していく。
俺は残念ながらそういう子供ではなくて、靴を足だけで履いたり脱いだり、靴下を足の指を使って脱いだりしては、親から小言をもらうことが多かった。
でもサッカーをやるときだけは、足が器用だと褒められるんだよな。
本当に、起きてから寝るまでの時間の中で、足で何かして褒めてもらえるのって、サッカーをやってるときだけだった。
赤ん坊が立ち上がるのが早かったりすると、喜んでもらえるってのは知識としては知ってる。でも、確かに俺は立つのも歩くのも、何なら走るのも平均より早かったと聞いてるけど、そんな頃に褒められた記憶なんか残ってない。
子供になってしまえば歩いたってほめてはもらえないし、走って褒められるのは体育の時間と運動会くらいしかないし。
むしろ廊下を走るなとか怒られるし。
さすがにこの職業を選んだ以上は、手で仕事をしなきゃいけないのはわかってるから努力したけど、中学生頃まではそんな感じのサルみたいなガキだった。
さらに言えば、俺は子供のころから言葉が流暢に使えるタイプじゃなかったから。ピッチの中でなら、言葉なしでも通じる瞬間があって、それも楽しかったな。目が合うだけで同じことを考えている仲間がいてくれたり、それさえなくても思ったところに味方が走り込んでくれたり、そういうのが好きだった。
半端に頭はよかったから、本気で怒られるような騒ぎは起こさない。
何にもわかってない癖に斜に構えて、自分の好きなことだけ一生懸命やって。自分が楽しければそれでよし、みたいな。
まぁ、ほんとに可愛げのかけらもないな。
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