家族のこと

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「焦っても逆効果だ。 一足飛びに大人にはなれないんだから。一日ずつ、じっくり育て」 康成にも何度も言った。 一年生、二年生と積み重ねていくしかない。 その間にほしいものが自分の手から飛び去って行ってしまわないように、心をつなぎとめる努力をしろ。 精いっぱい努力をして、それでも待ってもらえなかったら… 縁がなかったと思って諦めろ。 凌太郎が最後の試合で、ロングパスに左で飛び込むのを思いとどまったように。 諦めなきゃいけないこともある。 もっと大事なものを守るためだ。 例えばあの時、もっと早く気づいて回り込んでいたら、右で止めに行けただろう。 それを怠ったから、諦めざるを得ない状況に陥ったんだ。 どうしても諦めたくないなら、追い込まれる前にちゃんとやるべき努力をしろ。 そんなことを話しながら駅まで三人で歩いた。 凌太郎も拓人も、なんとなく真面目な顔で話を聞いてる。 偉そうなことを言える人間じゃないのはわかってる。 でも、少し先に生まれた者として、若い友人たちが迷った時の灯になってやることができたらいいとも思う。 俺は、たくさんの人にそうやって先を示してもらったから。 三人とも別の方向の電車や路線に乗るので、駅で手を振る。 「先生、ありがと」 「また遊びに来る」 そう言って、若者たちはそれぞれの場所へ帰っていった。 さて、俺も愛しい妻と子が眠る家に帰ることにしよう。
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