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うーん、でもそれって古代人が一から考えたものなんだろうか。オーパーツってのは良く聞いたことあるけれど、大体そういうものって実はそれ程昔じゃない時代の人がわざと遺したというケースもあるよな。とてつもない昔に現代社会の科学技術が遺してあって、滅茶苦茶話題になったけれど、実際にはそれよりも遥かに未来の時代――ぼく達からしてみれば、どちらも過去というニュアンスではあるのだろうけれど――の人間がそれを遺してしまったなんて報道されたからには、一気にメディアの論調が変わってしまって、誰がそれを行ったのかといった犯人探しをするようになってしまったのだ。人間ってのはいつの時代も狡賢いというか悪どいというか……、そりゃあ何処かの宗教の教典にもあったけれど、大洪水とか起こされるよな。
「何それ。ライト、宗教とか信じる人間だったっけ?」
軽く笑われながら(笑いながら、じゃない。ぼくの言動や思考を見て嘲るように笑ったのだからこの表現が正しい)、メアリはそう嘯いた。ぼくは全く宗教なんて信じていない。それどころか神は居ないとも思っている訳だ。無宗教の極致とでも言えば良いのだろうか……。このご時世、不安になる人も多いから宗教にとってみれば良い金蔓……おっと、言葉の表現が間違っていたな、失敬失敬。良いカモが増える訳だから、ラッキーとでも思っているのかもしれない。人間誰しも良い時代なら皆が救われる――なんてそんな御伽噺でもなかなか見られないような結末は、現実では有り得ないのだ。
「いやいや、そこじゃなくて……全然言葉の表現変わっていないでしょうよ。寧ろ直接的になったから、言い直した方が悪いような気がするし」
そうかな?
ぼくとしてはこれでも大分薄めた方なんだがな……。コーヒーを大量のお湯で薄めたかの如く。
「それ、ほんとうにコーヒーの味する? ただの黒の液体になっていない? ……まあ、それが好きって人も居るわよね。アメリカンって言うんだっけ? コーヒー豆から抽出したコーヒーの……ここでは敢えて原液と表現する訳だけれど、それをある程度薄める飲み方だったかしら。コーヒーは飲みたい、けれどカフェインはそれなりに要らないって人に愛されているみたいだけれど……、だったらカフェインレスのコーヒーを最初から飲めば良いのに。そんなに味も変わらないはずでしょう?」
わたしはカフェインレスのコーヒーなんて飲んだことないけれど――メアリはそう言い放って、頷くのだった。
いや、飲んだことないなら堂々と言わない方が良いと思うぞ。多分カフェインレスとカフェイン入りのコーヒーじゃ、色々と違いがあるんだろう。味とか風味とか香りとか。
「何か表現被っているような気がするけれど、気のせい? ……まあ、そういう回りくどい言い方をするのも、あんたの長所のようで短所のようなところよね」
せめて、きちんと長所であると言い切ってくれればぼくもこれからの話をやりやすいのだけれど……、ただまあ、メアリにはメアリの考えがある訳で、それと同じようにぼくにはぼくの考えがある。それらが鎬を削ってまあまあ及第点にもなる辺りを見つけてそこで解決していくのが、ぼくとメアリの話し合いの流れだ。言葉と言葉の殴り合いとでも言えば良いかな?
「何でそんなことしなくちゃならないのよ。少しは譲歩しなさいよ……。まあ、とにかく長々と話をするなら、やっぱりそれなりの場所を用意しないとね。ねえ、ここはあそこに行かない? これからのことも色々と話し合いたいし……、それに、ここまで連れて来てくれたリッキーさんにもお礼がしたいし」
それは同意する。ここは埃っぽくて敵わない……。出来ることならコーヒーが飲みたいな。さっきコーヒーの話題を出した訳だし。
「あんたが勝手に出したんでしょう……。でも、その意見には同意するわ。やっぱり探偵活動の一環として必要なのは、ティータイムよね。かの古の名探偵、シャーロック・ホームズもティータイムは欠かせないとか言っていたような言っていなかったような」
そこははっきりしておけよ、探偵におけるマイルストーン的立ち位置なんだろうが……。ただ、シャーロック・ホームズって色々表になかなか出しづらいような設定なかったっけ? 薬だか何かの常習をしていたとか。
「それについてはノーコメントで!」
ノーコメントって。別にコメントしようがしまいがお前の立ち位置に何ら影響はないだろうに。まあ、腐れ縁の友人が薬をやっているというなら、話し合いで解決出来るなら解決したいところではあるけれど……。
そういう話をしながら、ぼく達は長々と居座る訳にもいかない機械室を、それなりに長々と居座ったのを反省しつつ、後にするのであった。
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