第一話 機械仕掛けの亀 Steam_Turtle.

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 結局、推理開始とは堂々と言ってみたものの、実際どういう風に進めれば良いのかということについては、具体的に私立探偵メアリに任せっきりの状態であった。  私立探偵であって、市立探偵ではない。  自分で仕事をする探偵であって、何処かの事務所に雇われている訳ではない。 「……何処まで把握しているかどうかは分からないけれど、先ずは予想されている場所に向かうことにしようかな、と」 「どうやって向かうんだ? 電子時計に上層街へ向かうための旅券(パスポート)が付随している訳だし、それがない限り向かうことは出来ないと思うけれど?」 「だから、そこがネックな訳。――どうして彼女が上層街からやって来た、なんて思っているのかな?」  そりゃあ、上から落ちてきたからに決まっているだろう。 「そうそう。んで、その『上から落ちてきた』だけれど……どうしてそれが上層街からの落下だと結びつけられるのかな? わたしはずっと思っていたのだけれど、普通に考えて上層街の技術(テクノロジー)って、下層街とは比べものにならない訳でしょう? まあ、実際に行ったことないからはっきりとしない訳だけれど……その上層街が、どうして一人の少女を下層街に放り投げるなんて前世代的(レガシー)な行動に出たのだろうか、って話よ。もし彼女が上層街の何かしらの秘密を抱えていたとするなら、はっきり言って、殺してしまうのが一般的なやり方じゃない?」  直ぐ隣に張本人が居るのに、何を言っているんだこの探偵は。  いや、それはそれとして――しかし、メアリの言い分はある意味正しい。だって冷静に考えてみれば分かる。今までぼくは空から少女が落ちてきた、ということを――単純に上層街から落下してきたのだと捉えていた。それが一番普通な考え方であり、一番素直に落ち着く結論だし、一番分かりやすい回答だった。しかしながら、その回答をそのままひっくり返すような理論が出てくるとしたら――話は百八十度大きく変わってしまう。周りが赤いと言っていたのにぼくだけ青いと言って、実はそれが正しかったような――このたとえ、合っているのかどうか分からないけれど、合っていないとしても、合っているとしても、ぼくはあまり訂正しようとは思わない。訂正する意味がないからだ。訂正したところでたいしたことがないからだ。であるならば――考えられる結論はただ一つ。  上層街から落下したのではない。  上層街から落下したようにのだ。  それならば、何故上層街の人間がわざわざ下層街に少女を落としたのか――という不可思議な疑問についても説明が付く。そもそも上層街の人間はこれに関与していないのであれば、そもそも落下させたって全然問題ない訳だからだ。 「……ただ、仮にそうだとして」 「何か違和感でも?」 「どうして彼女は捨てられたんだ? それに、歯車が沢山ある部屋のイメージ……それも解決していないと思うけれど、それについてはどう推察するつもりだ?」 「うーん、それについてはあんまり解答が導けていないのだけれど」 「だけれど?」 「でも、わたしの知りうる限りの捜査網を最大限に使ってみた。……その答えがこれ」  そこで、メアリはようやく立ち止まった。そう、特に何も言っていなかったけれど――そもそも聞かれていなかったし――ぼく達はずっと第四都市(フォース・シェル)下層街の主要道路(メインストリート)を気の向くままに歩いていた。正確には私立探偵メアリの後をぼくと少女が付いてきていた、という訳なのだけれど。そういや、彼女の名前、何にしようかなあ。
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