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結局、推理開始とは堂々と言ってみたものの、実際どういう風に進めれば良いのかということについては、具体的に私立探偵メアリに任せっきりの状態であった。
私立探偵であって、市立探偵ではない。
自分で仕事をする探偵であって、何処かの事務所に雇われている訳ではない。
「……何処まで把握しているかどうかは分からないけれど、先ずは予想されている場所に向かうことにしようかな、と」
「どうやって向かうんだ? 電子時計に上層街へ向かうための旅券が付随している訳だし、それがない限り向かうことは出来ないと思うけれど?」
「だから、そこがネックな訳。――どうして彼女が上層街からやって来た、なんて思っているのかな?」
そりゃあ、上から落ちてきたからに決まっているだろう。
「そうそう。んで、その『上から落ちてきた』だけれど……どうしてそれが上層街からの落下だと結びつけられるのかな? わたしはずっと思っていたのだけれど、普通に考えて上層街の技術って、下層街とは比べものにならない訳でしょう? まあ、実際に行ったことないからはっきりとしない訳だけれど……その上層街が、どうして一人の少女を下層街に放り投げるなんて前世代的な行動に出たのだろうか、って話よ。もし彼女が上層街の何かしらの秘密を抱えていたとするなら、はっきり言って、殺してしまうのが一般的なやり方じゃない?」
直ぐ隣に張本人が居るのに、何を言っているんだこの探偵は。
いや、それはそれとして――しかし、メアリの言い分はある意味正しい。だって冷静に考えてみれば分かる。今までぼくは空から少女が落ちてきた、ということを――単純に上層街から落下してきたのだと捉えていた。それが一番普通な考え方であり、一番素直に落ち着く結論だし、一番分かりやすい回答だった。しかしながら、その回答をそのままひっくり返すような理論が出てくるとしたら――話は百八十度大きく変わってしまう。周りが赤いと言っていたのにぼくだけ青いと言って、実はそれが正しかったような――このたとえ、合っているのかどうか分からないけれど、合っていないとしても、合っているとしても、ぼくはあまり訂正しようとは思わない。訂正する意味がないからだ。訂正したところでたいしたことがないからだ。であるならば――考えられる結論はただ一つ。
上層街から落下したのではない。
上層街から落下したように見せかけられたのだ。
それならば、何故上層街の人間がわざわざ下層街に少女を落としたのか――という不可思議な疑問についても説明が付く。そもそも上層街の人間はこれに関与していないのであれば、そもそも落下させたって全然問題ない訳だからだ。
「……ただ、仮にそうだとして」
「何か違和感でも?」
「どうして彼女は捨てられたんだ? それに、歯車が沢山ある部屋のイメージ……それも解決していないと思うけれど、それについてはどう推察するつもりだ?」
「うーん、それについてはあんまり解答が導けていないのだけれど」
「だけれど?」
「でも、わたしの知りうる限りの捜査網を最大限に使ってみた。……その答えがこれ」
そこで、メアリはようやく立ち止まった。そう、特に何も言っていなかったけれど――そもそも聞かれていなかったし――ぼく達はずっと第四都市下層街の主要道路を気の向くままに歩いていた。正確には私立探偵メアリの後をぼくと少女が付いてきていた、という訳なのだけれど。そういや、彼女の名前、何にしようかなあ。
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