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「そんな反政府思想を大っぴらに言えるラジオ番組なんて、一つしか思いつかないな。……『ラジオ・トゥルーマン』とか?」
「御明察。流石はライトだね」
「……褒めたところで何も出ないよ」
「期待していないから安心して!」
安心して良いのか、それ。
「それにしても『ラジオ・トゥルーマン』って凄いよねー。何処のラジオ局も政府に頭下げまくっているのに、ここだけは反政府を貫いているんだから。いつか何かしらの攻撃を受けてもおかしくないだろうに……」
それは別にどうでもいいだろ。お前はラジオ・トゥルーマンに何の心配をしているんだ。
そもそも、この時代に他人のことを心配出来る余裕なんて――あまりないのだからな。
「まあ、メアリはずっと昔からそういう……他人の心配をする奴だったけれど、あんまりそれをする意味なんてないと思うよ? だって、この時代……他人を心配したところで何のメリットもないんだからね」
メリットどころかデメリットしかない。
そんなことをわざわざする意味なんて何一つないのだから、そりゃあ人間同士の関わり合いも軽薄になっていくよな。
「……まだ、こない?」
プネウマの言葉を聞いて、ぼくは首を傾げる。いきなりの相談事だから直ぐにやって来ないのは重々承知しているとはいえ――遅すぎやしないか?
「メアリ。女将さんから聞いた連絡先に電話して――」
「いやあ、遅くなったな。済まない、済まない」
大きな声がいきなり背後から聞こえてきて、ぼくは面食らった。
多分メアリと――全く反応していないけれどプネウマでさえも――面食らっていたに違いない。
振り返ると、そこに立っていたのは恰幅の良い大男だった。大男だったが、何だか笑顔は輝いて見える。キラキラしている、って言うのか? 何というか、そんな感覚。正直そんな感覚を男で味わいたくはなかったのだけれど、それはそれ。これはこれ。出来得ることなら経験したくなかったことではあるが、経験することは悪いことではない。
「……あなたが、女将さんの言っていた?」
ぼくの言葉に、おう、と言って答える大男。
何というか、声のボリュームをもう少し下げて欲しい。
「おれの名前はリック。リッキーと呼んでくれ、おれの知り合いはみーんなそう呼んでいるからな!」
……何というか、はっきり言わせてもらう。
この大男、ぼくの嫌いなタイプだ。
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