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第二話 鋼鉄の背骨 Steel_Spine.
「中央塔はな、入るのがなかなか難しいんだよ。何でそうなっているか分かるか? そりゃあ、上層街の人からすりゃあ、ここを取られちまうと色々問題があるって訳なんだよ。実際、ここを使う人は滅多に居やしねえ。上層街の人間は下層街に店を構えていることはあるだろうが、実際に下層街まで降りてくる人間は居ねえからな。全部電子時計で賄えちまう。便利な時代になったもんだよ。でも、それならどうしてわざわざ上層街と下層街を繋いでいる装置が未だに存在しているかって話だが……、それはおれにも分からねえ。おれはあんまり難しいことを考えるのが苦手だからな。その辺りはほら……もっと頭の良い奴に聞いてみたら分かるかもしれねえな」
……何なんだろう。ぼくの周りには良く喋る奴しか集まらないのか?
「まあ、それは別に良いじゃない。とにかく今は……ここからどうやり過ごすかということであって」
「……、」
至極最もな回答であった。
結論から言って、今ぼく達が何処に居るのかということについて触れなければならない。ぼく達が今居るのは、中央塔であった。中央塔は、学校の授業では習ったこともあったし、社会科見学で工場を見に行くときに使ったこともある。尤も、その中央塔のエレベーターを使ったとはいえ、上層街に向かったのではなく、さらに下層に広がる機関部(エンジン)に向かっただけに過ぎないのだけれど。……今思うと、下層街に住んでいる人間を機関部という機密中の機密に連れ込むなんて、ギャンブルなことをしているものだな、って思う。だって、そこでもしテロ行為でもされたらスチーム・タートル自体動かなくなってしまうんだぞ?
「それは、誰もしないだろうと踏んだんでしょうね……。実際、それをしたことでメリットがあるかと言うと不明瞭なところもある訳だし。上層街だけが損をするならやる価値はあるかもしれないけれど、等しく全ての人間が損をする訳だから……。ほら、ああいう人間って自分に利益があればやるかもしれないけれど、自分が損をすると分かったらやりたがらないでしょう? それと同じよ」
「……いやー、それはどうかと」
「そこは素直に肯定して欲しかったけれどね。有無を言わせずに」
言わせずなのかよ。
言わさずじゃなくて。
「がっはっは。お前さん達と居ると飽きないな。……ところで、お望みの場所は何処だったかな?」
リッキーは話をあまり聞かないようだ……。出来ればそれは止めて欲しいことではあるのだけれど。ぼくも何度も話をしていられる程、完全記憶能力を保持している訳ではない。一万冊もの蔵書を覚えられるぐらいの記憶力を備えている訳でもないのだし。
「だからぼく達が向かいたいのは……頸椎のところですよね。まあ、実物の亀に頸椎があるかどうかは分からないですけれど」
「ああ。それってつまり、この中央塔を人間で言うところの背骨で表しているんだろう? まあ、確かに本物の亀ってのは、甲羅を背負っている訳だから、背骨みたいな一本筋の通った骨は要らないよな。必要である価値を見いだせない訳だし」
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