第二話 鋼鉄の背骨 Steel_Spine.

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「……そりゃあまあ、機械室ってのは入り組んだ場所にあるのがお決まりってもんだろうよ。実際、分かりやすい場所に置かれていたら困るだろう? ほら、たとえば簡単に狙われちまうしな」 「分からなくはないですけれど……、そんなもんなんですか? そんな単純な考えで動いているんですか、政府って」  政府も政府で色々と考えは張り巡らせているんだろうけれど。  お偉いさんの考えは、庶民には分かりっこない。  ただの他人だって分からないんだから。 「政府の考えは詳しく分からねえけれどよ……、でも普通の考えからしてみりゃ、分かる話だろ? スチーム・タートルの機関部に潜入されることがどれだけヤバイかってことを。まあ、それを言うなら社会科見学に機関部を見せなくても良い……なんて話になるんだろうけれどよ。やっぱり将来はここで働きたい、なんて意思表示をさせるために見せているのかねえ? おれはあんまり詳しいことは分からねえけれどな。分かっていたら、とっくにこんな場所からオサラバしているしな」  それはあくまで本人の努力だと思う――実際それが上手く行くかどうかで今後のやり方が決まっていく訳だし。生活がかかっている人だって当然居るだろうから――もっと言えばお金は貰えれば貰えるだけ良い訳だから――それについてはあんまり気にすることはない。  努力さえすれば、結果は出る。  そんな一昔前の価値観を今更誇ったところで、何の意味がないと言ってしまえばそれまでなのだけれど、しかしながら、それを如何にして考えるかというのも、なかなか困り物だ。実際、それが解釈されるのって、解釈する人間による訳だし。  たとえ一定の基準があったとしても、その基準は監査する人間の感情が入らないとは限らない。  完全に機械に任せてしまえば、そこについては解決してしまうのだろうけれど――いやさ、それが出来れば苦労しない。  そもそもそのレベルまでこの世界の科学技術は到達していない。  一度も到達していないかと言われると、はっきりそうであるとは言い難い。やはり、このような巨大な乗り物――感覚的には船や自動車に近いのかもしれない。尤も、それらもかつて存在していた、というだけでこの時代には現存していないのだけれど――が開発されていて保全もされているのだから、この世界の科学技術はそれなりの基準を満たしているという訳。その基準を満たしたところで、それじゃ機械で全てを判断することは――それこそ人間の頭脳のように――出来るのかというと、それはまた別問題。かつてはそんな技術もあったようだけれど、幾度かの戦争で失われてしまったらしい。 「古い言葉を借りて言うなら、人工知能……だったか? それが廃れちまったのは、やっぱり過去の戦争が原因なんだと。かつては人工知能が発達していたから、具体的に言えばおれのような保全担当にわざわざ人員を割く必要はなくて……たとえば中央塔の隅から隅までカメラを移動させて、それを機械に判断させることで、保全業務を完全に無人化することも、昔は出来たらしいんだよな。今出来たらそれはそれで有難いことにはなるんだろうが、少なくともおれみたいな人間は職を失うだろうな。わざわざ人間でやらなくて良いし、そもそも機械で全部完結させられるなら人件費もかからねえだろうからな」
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