第二話 鋼鉄の背骨 Steel_Spine.

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 分からなくはないけれど、分かりたくもない。  そういう需要だけで色々と決めてしまうのはナンセンスだと思う。だって、百人が欲しいと思った物よりも、一万人が欲しいと思った物の方が優先される――メアリが言いたいのはそういうことなのだろう? 実際、政府もそういうことを織り交ぜて言っているのだと思う訳だけれど、しかしながら、それがほんとうにそうであるとして、そのまま社会が進んでいったら、多様性がなくなってしまう。  儲けが必要なのは分かるけれど、この時代――ベーシックインカムによって、最低限の生活は保障されている訳だ。尤も、そのベーシックインカムの財源はどうなっているんだという訳で、会社なり個人事業主は『企業税』なるものを支払っている訳だし、貿易についても関税が働いていたりと、ベーシックインカム制度を守るために色々な税金をかけている訳だけれど、それは払う場面に遭遇しなければ良い訳であって、極力その場面を避けることだって出来る。まあ、避けられないタイミングと言えば、商品を買う時の税金――いわゆる消費税ぐらいだろうか。消費税は現在は三十五パーセント以上、となっている。以上、というのは商品の種類に応じて変動するから。日用品や食料品といった消耗品は三十五パーセント固定で、日常生活には使うけれど消耗品とも言い難い代物になればなる程、税金は高くのしかかる。  それによって、かつて高級品だと謳われた代物が、さらに高級になってしまった。……つまり、ベーシックインカムを使っているだけじゃ、それを買えなくなったって訳。高級品も低級品も値上げはした訳だけれど、高級であればある程、その値上げ幅は広がっていった。だから、車とか高級時計とか……、あんまり日常生活には必要なようで必要でないような嗜好品の類いに関しては、それを購入する人は減ったことは減った。しかしながら、それを税金の上昇分でカバーしきれたのかどうかは定かではないけれど、今でもその税率を維持している以上、恐らく確保は出来ているのだと思う。需要と供給って大事だよな。 「最後は違うような気がするけれど……、でもまあ、そういう世の中に生きているんだから致し方ないことではあるわよね……。探偵稼業を続けている訳だけれど、それだって高過ぎちゃあ誰も使ってくれない訳だし。適正価格がある訳でもないから、設定するのも大変だし。最初は大変だったわよ。敢えて高い値段で見積もって、そこから顧客と値段のすりあわせをしていく……営業と何にも変わりゃしない。そりゃあ、個人事業主だから何でも一人でこなさないといけない訳だけれど」 「でも、お金の関係は税理士やら何やらに相談しているんじゃなかったっけ?」 「相談と言っても、あまりにも分からなかったら……の話よ。今はそう何度も税理士を……専門家を頼っちゃいられない。あちらも商売なのは分かりきっていることではあるけれど……彼ら、こちらの年収の一パーセントを報酬として持っていこうとしているからね。一パーセントあれば、一ヶ月とは言わずとも十日ぐらいは暮らしていける金額よ」  ……うん、まあ。  何というか、メアリってそれなりに探偵で稼いでいるんだな……。  ちょっとだけ、友人が遠い存在に見えてきた。  
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