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モノローグがすっかり長くなってしまったけれど、目的地に着いてしまえばどうということはない。こういう経験は別段初めてという訳ではないのだけれど、さりとて、いざ自分が向かい合った時にどのように対処すれば良いのかということについては、随分と判断に悩まされることがあるのは、間違いではない。
ぼく達が機械室――リッキーが言うところの、恐らくプネウマの記憶の中にある空間――は、扉が閉ざされていた。当然と言えば当然ではあるのだけれど、この部屋自体が機械室であって、ここにある機械が壊されるとか非常事態が起きたときにスチーム・タートルの運営に影響が出るから、基本的に部屋の鍵は閉ざされているのだという。
メンテナンスを行うリッキーですら、七日に一度入るか入らないかぐらい。
それぐらいの頻度でしか出入りしないのであれば――この部屋の存在に気づかないってことも有り得る。
つくづく、リッキーの記憶力には感謝せねばなるまい。
「……もっと感謝すべきポイントはあると思うんだけれどな? 例えばほら、おれがメンテナンスの仕事をしていなかったら、そもそもここには入れなかった訳だろう? それについての感謝の気持ちを持っても別に悪いことじゃねえと思うんだけれどな」
それは……ほら、ここの存在を知っている、イコール、ここを定期的に使う人間しか有り得ない訳であって。
ここへの案内とイコールになるというか。
「でもでも、ちゃんと感謝の気持ちを持たないと駄目なのは……その通りだな、って思わなくもないけれどね。実際、感謝の気持ちを持たない人間って多いらしいよー。この前のラジオでも言っていたよ」
メアリの情報源はラジオしかないのか。
それも特定のラジオ番組の。
「あり? バレた?」
バレたも何も、振る舞いで分かる。
「……それにしても、お前さん達仲が良いようだけれど、いつからの付き合いなんだ? この第四都市で……いいや、もっと言っちまうと、下層街に住んでいる人間同士で、そういう風に仲が良いのはおれの経験上見たことがねえ。何つーか、色々な山を乗り越えたような、そんな感じがするぜ」
ええと……もっと具体的に言って貰えます?
「具体的に言うと、一日で出来たような関係じゃねえよな、って話だ」
そりゃあ、確かに。
ぼくとメアリの関係を、一文で説明しろ――なんて言われるとぼくはノーと答えざるを得ない。そんな簡単に答えられる程、二人の関係は簡単なものではないのだ。ええと、あれは確か三十六万年前だったような気もするけれど……。
「そんな昔からの付き合いでもないし。仮にそうであったとしたら人間じゃないでしょう、わたし達。……まあ、それについてはいつか話す機会があったら、話すことにします。今は取り敢えずお預け、ということで」
え。良いのか。
原稿用紙百枚分ぐらいのエピソードを語るつもり満々だったのに。
「こんなところで話したって、全然意味がないでしょう。……さあ、リッキーさん。扉を開けてください。わたし達はそのためにやって来たんですから。ライト、忘れたとは言わせないわよ? ここにやって来た理由は何であるか」
ええと、何だっけ――。
「社会科見学、ではないからね」
先を越された!
……分かったよ、ボケる必要はないってことだろう。ここに来た理由、そんなこと分かっているよ。片時でも忘れたことなんてない。ぼくの家に落ちてきた少女プネウマの記憶を辿るためだろう?
「……真面目に話してくれるなら、全然楽に進むんだけれどね。まあ、いいや。さあ、リッキーさん開けてください」
おうよ、と言ってリッキーはカードキーを装置の穴にスライドさせていく。
ピンポーン、という電子音とともに扉がゆっくりと開かれていった。
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