第二話 鋼鉄の背骨 Steel_Spine.

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「人生の意味を今更とやかく言うのもどうかと思うけれど……。それに、どんな高尚な学者だって、人生の意味に辿り着けた人なんて居ない。正確に言うと、何人かは到達してそれを書物なり論文なりに書き記した人も居ることは居るけれど……、それはあくまでその人にとっての、という但し書きが付く。但し書きが付いていない、ほんとうの意味の人生とは何か? という問い、その答えに誰も辿り着けていない……というのが実際のところよね。そういうことを考えることを仕事にしている、学者ですらそこに辿り着けないのだから、わたし達一般人が辿り着ける訳もない。もし辿り着いたと宣うなら、それはきっと学者としての才能があるのかもね。学者というのは、自分が見つけた法則を――それこそ、どんな些細なことでも――それが如何に正当性を持っているかどうかを難しい文言を用いて発表し、それを権威にする存在なのだから」  それは間違っているようで間違っていないような気がするけれど――しかし、それを学者に聞かれたらどういう反応をされるのだろうな? 少なくとも論戦に持ち込まれることは間違いなさそうだ。それこそ、彼らが得意とするディベートに持っていかれるだろうな。 「あら、わたしはディベートも得意なのよ。ちゃっちい学者だったら、言い負かすことも出来るかもね」  ……その自信は一体何処から出て来るのだろうか? 自信があるということは、それなりに実力を持ち合わせているということになるのだろうけれど、普通専門家と戦っても勝つことが出来る――なんて言う人は居ないぞ。それこそ、相手が初心者や新人や耄碌した人間なら、未だ勝利に持ち込める確率が上がるかもしれないが。上がったところで、ぼくには勝利の道筋が見えてこないので、挑まない。そもそも、負けが決まっている勝負にはわざわざ挑まないのが、ぼくのスタイルでね。だって時間と体力の無駄だし。 「……人生なんて難しいことはおれには分からねえけれどよ、楽しければそれで良いんじゃねえのか? 楽しく過ごしていりゃ、側から見てハードモードだと思っていても、本人はイージーモードかノーマルモードだと自覚していりゃ、それまでな訳だからな。それに……」 「それに?」 「……わざわざそんな小難しいことを考えなくても、生きていくことは出来るんじゃねえか? どうしてそんなことをするんだ? それこそ、茨の道を進むが如くの振る舞いに見えなくもないが」  何故だろうね。  時間が有り余っていると、こういうどうでも良いことを覚えたくなったり考えたくなったり話したくなるのかもしれない。きっと仕事に就いていれば、それもまた違った解釈で捉えられるのだろうけれど、いかんせん、ぼくはそこまで考えてはいない。仕事に就いて何をすれば良いんだ。別に働かなくても飯は食えるんだし。かつては働かざる者食うべからず、なんて古い言葉が伝わっていて、仕事をすることが美徳なんて言われていた時代もあった訳だけれど、ベーシックインカムが導入されてからは、別に働かなくても良いじゃん、っていう考えをする人が大幅に増加して、気付けばその言い回しも死語になっていた。文化というのは廃れもあれば流行りもあるし、それぐらいは仕方がないことではあるのだけれど。 「……ま、人生ってのは人それぞれだしな。誰がどういう風に歩もうとも、おれには関係ないし、あんた達にも関係ないだろ」  確かに。  リッキーは時折鋭いことを言うな――ぼくは度々そう思った。とはいえ、リッキーと出会ったのは今日が初めてのことであるから、その時折という意味も正しいのかどうか分からないのだけれど。それぐらいは許容範囲ということで。
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