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「許容範囲が良いかどうかは別として……、ほら、お望みの機械室だぜ。さっさと入ってくれないと扉が閉められねえ。中はカメラがないから良いかもしれねえが、ここの通路にはカメラがあるからな。何処から情報が流出するか分からねえから……とにかくさっさと入ってくれるか?」
痺れを切らしたようにリッキーはそう言い放った。思えば扉が開いてからもここでぐだぐだと話を展開していたのだった……、そりゃリッキーからしてみれば、大慌てではあるよな。監視カメラの映像さえ残っていれば、ぼく達がここに入って来ているのは丸分かりであるし、それをリッキーが手引きしたのも分かってしまうだろう。画質は粗いので、遠目で見たら顔までは判別出来ないかもしれないが、カードキーの記録と照合したらあっさり犯人が分かってしまうかもしれない。それはリッキーにとってみれば職権濫用になる訳だから――出来ることならそれは避けておきたい、ということなのだろう。
「分かっているなら、さっさと入ってくれよ。なおのこと、悪質じゃねえか。てっきりおれはそういうことは知らずについついここで話していたのだと思っていたぜ。カメラの仕組みとかその辺り分かっているくせに、ここでべらべらと喋っていたのかよ?」
喋っていたというより、半分思っていただけなのだけれど。
というか今までの地の文全部口に出していたら、大変だろう。脚本として何ページ分あるんだろうか。
「……とにかく、糸口を探さないとね。プネウマちゃん、大丈夫?」
「うん……だいじょうぶ……」
無口なことが多いプネウマは、すっかり機関部に入ってから話す機会を失っていた……、だからあんまり存在感がなかったというか。わざとそうだとするなら、何かしらの意図を感じる訳だけれど、まあ、そんなことを思ってはいないだろうな。もし思っていたならかなり頭の良いことではあるし、逆にぼく達はプネウマを信用出来なくなる。
尤も、今の状況はプネウマが正義に立っているから成り立っていることであって、プネウマの記憶を紐解いていくうちにもしかしたらプネウマは悪人だった――なんて可能性も否定出来ないのだ。否定出来れば否定したいけれど、現状では明確に否定出来る証拠が見つかっていない。逆に、プネウマが悪者ではないという証拠も見つかっていない。悪魔の証明にも近しいものではあるのだけれど、しかして、それが正しいか正しくないかを第三者視点で決めつけるには、やはりそれなりの証拠が揃っていなければならない訳だし、証拠自体が正しいかどうかも綿密に検証していかねばならないのだ。
それをぼくとメアリでやっていけるのか――というと直ぐに頷くことは出来なそうだ。今は未だこの機械室しか証拠という証拠が上がっていない訳だけれど、更に多くの証拠が上がってくるのは容易に想像出来る。その時、ぼく達二人でそれを処理し切れるかどうか――今は未だ百パーセント可能であるとは言い切れないのだ。
「で……、どうなんだよ。機械室の様子は?」
「……ああ、そうですよね」
そして今は――ぼく達が機械室にやって来た理由について、処理せねばならなかった。
機械室は沢山の歯車が所狭しと並べられていて、それらが規則正しく動いている。尤も、歯車というのはそれ単体では意味を成さず、動力を与える歯車と動力を受け取る歯車とを噛み合わせて動かすことで、初めて意味を成す。そして、この部屋にはその一対の歯車が至る所に置かれている。これでは、何が何のために設置されているのか分からない。流石にここで働いているリッキーは知っているのかもしれないけれど。
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