第二話 鋼鉄の背骨 Steel_Spine.

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 強か、というのは概ね間違っていないような気がするけれど、しかし、この状態で使う物だろうか? 「人間が頭脳しか使わなくなることは悪いこと可というと、案外そうでもない……。ぼくは本を読んだだけだから、実際にその時代の人に見聞きした訳じゃないけれど、その時代は生きづらかったんじゃないかな? だって、自動車がないと生活出来ないなんて……今の時代じゃ考えられない」  考えられるということは、実現出来ることでもあるのだろうけれど。 「それはわたしにだって分からないわよ。スチーム・タートルが出来てからどれぐらいの年月が経過していると思っているのよ。それこそ、スチーム・タートル自体にガタが来ていると言ってもおかしくないぐらいの年月は経過しているはずなのに。……でも、大型のメンテナンスってあんまり行われないような? ソフトウェアでいうところの、マイナーアップデートを繰り返している印象が強いけれど」  メジャーアップデートとマイナーアップデートが、スチーム・タートルにも適用されるのかどうかは定かではないけれど、しかしながら、メアリの発言も間違っていないようだった……。実際、暮らしている内には全く認知しないけれど、重箱の隅をつつくように目敏くチェックしていくと、結構ボロボロであったりする。さび付いていたり、水が漏れていたり、蒸気の音が五月蠅かったり。 「最後は余計な気がするけれど……、実際最後に至っては修正しようがないじゃない。スチーム・タートルは読んで字の如く、蒸気機関によって動かしているのだから」 「そりゃあ、分かっているよ……。でも、スチーム・タートルって凄いよな。昔は蒸気機関を使っていなかったんだろう? 本でも読んだけれど、油を燃やしたり、爆発させたエネルギーを使って発電していたとかしていなかったとか。蒸気機関も出てきた当初から比べれば、エネルギーの回収率は向上したようだけれど……、それでもその二つに比べると全然効率が違う、なんて聞いたことがあるな」 「だったら、どうしてスチーム・タートルはスチーム・タートルとして動かしていたのかしらね? ここまで複雑な作りをしているのだから……、何か理由でもあるのかしら?」 「その時代で一番効率の良いエネルギーが蒸気機関だけだったんじゃねえのか?」  そこで口を出したのはリッキーだった。  二人の会話に夢中になっていて、すっかりリッキーのことを忘れていた……。わざとではないので、我慢しておいて欲しい。 「我慢してくれ、と言われて我慢出来るのがおかしな話なんだがな……。それと、さっき言っていた発電方式だと色々と問題があるなんて聞いたことがあるな。空気を汚染してしまうとか、何かあったときの対策を取りづらいとか。一方、蒸気機関はある程度安定していて、尚且つリカバリーが効くから……、だから蒸気機関を導入したとか、案外そういうような単純な理由だったりするんじゃねえか?」  確かに、言われればそれまでだった。  けれど、そう簡単に片付けられちゃうと、やっぱりこねくり回したくなるんだよな。 「……ほんとそれ、悪い癖だからね? わたしもそういうことをしてしまう癖はあると自覚しているから、思い出したら頑張ってコンパクトに纏めようと努力はするけっれど、あんたの場合それすらしないでしょう? 場合によっては、分かっているのにわざと無理矢理話を繋いだりしているでしょう。それで友人が減るのよ」  友人が減るのとぼくの話し方は別問題だろう。……多分。  いずれにせよ、人間というのは誰しも同じ生き物じゃないって訳だ。ロボットとは違うからな。ロボットは一体一体管理番号が割り振られているようだけれど、人間にも……政府が管理するための番号が割り振られているから、良く良く考えなくても同じシステムだったり? 「そこについてちゃんと話しなさい。一貫性を持たせるならね……さて、」  話を切り替えようとするメアリ。  当然ではあるが、今この部屋に居るのはぼく達だけで、ぼく達がここにやって来ているのは、部屋をじろじろとくまなく眺めているプネウマの記憶の断片を追うためでもあった。  何か一つでもヒントがあればそれで良い。  しかし、一つでもヒントがなければ――進展がなければ――そこで手詰まりだ。双六でいうところの振り出しに戻らなくてはならない。  
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