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しかし、双六ならまだやり直しが効くかもしれないが、現実だとそうはいかない。リカバリーが効くのもゲームならではのことであるし、現実でも必ずリカバリーが効くかと言われると――そりゃあそのパターンやシチュエーションによるんじゃないかな。シチュエーションによっては取り返しのつかないことはある訳だし、ぼくも幾度かそういう機会に見舞われたこともある。それについては、近い将来語る日が来ると良いんだが。
「なに含みを持たせた言い回ししているのよ。それをしたからって何も得はしないし、だったら直球で話してくれた方がこちらも楽だったりするのよ。回りくどい言い方は、はっきり言って嫌われる傾向にあるんだから」
「……直せと言われても簡単に直せる訳がないだろう。そんなことが出来たら苦労しないし、ぼくのアイデンティティが消失するんだから」
「誰も得しないアイデンティティなんて存在する価値があるのかしら? ……まあ、戯言は程々にしておいて、どう? 何か見えそう?」
見える、って……。彼女は超能力者でも透視能力を持ち合わせている訳でもないんだぞ。いきなりこの作品が異能力バトルに目覚めたらそれはそれで話は変わってくるかもしれないが。
「うん、ライトは黙っていてくれるかな? ……いちいちあんたの話に付き合っていると、時間が幾らあっても足りないんだから。何度も言ったかもしれないけれど、少しは自覚して? 出来ないのなら、これ以上話を回りくどくさせない努力の一つでもしてみたらどうなの?」
そりゃあ無理難題だ……、屏風の中に居る虎を捕まえさせようなんて言っているのと同義だぜ?
「そんな頓智を効かせたつもりはないのだけれど……、ええ、そうね。とにかくあんたが喋らなければこの話の四分の一は減っていたんじゃないかしら」
「それ、君も同罪だろ? ……ぼくの意味のあるようでないようでやっぱりありそうな、のらりくらりとした話題にずっとついてきてくれたじゃないか」
「それはそれ、これはこれ」
どれがどれを指しているのか、直ぐには見当が付かなかった訳だけれど――しかし、メアリがこう自分の余罪を追求させまいと思っているのを見ると、案外彼女も切羽詰まっているのかもしれない。まあ、悪いこととは言わないし、それがメアリの良いところなのかもしれないな。なんやかんやで腐れ縁としてずっと付き合ってきた訳だから、それぐらいは保証してやる。流石に借金の保証人になるつもりはないけれど。だってお金ないし。
「やっぱり世の中お金よね……。お金がなければ、解決出来ることも解決出来ないんですもの。そりゃあ、あればある程困らないかもしれないけれど……滅茶苦茶にお金があるところは、その処理方法も大変そうな気がしない? 出来るなら、沢山処分してあげるから欲しいんだけれどな」
半分私利私欲がダダ漏れじゃねえか。それだからお金が貯まらないんじゃないか? いや、今は多くは語るまい……。ぼくとメアリは同じ人間のようで、生きているフィールドが違うのだ。であるならば、やはり価値観も生き方も考え方も変わってくるのは当然のことだ。海老が赤いのは食べ物によってそうなっているからであって、食べ物に青の色素を加えたら青い海老が誕生するのと同じ理屈だ。
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