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「スチーム・タートルに……特に下層街に居る以上は滅多にお目にかかれない、『空』……。どうしてその嬢ちゃんはそんなことを言っているんだ? そもそも、その嬢ちゃんは記憶を失っている……なんて話を聞いたような気がするけれどよ、どうして記憶を失っちまったんだ?」
それはぼくにも分からない……。分かっていたら直ぐに解決の糸口を探していただろうし、第一それを見つけたところで解決策を導けるかどうかと言われると不透明だ。出来ることなら有無を言わさず記憶を取り戻せると言ってあげたいところではあるのだけれど。機械みたいに修理が出来る代物じゃないからな、人間って。
記憶を失った存在から、どうやって記憶を取り戻させれば良いのだろうかね。
きっかけさえあれば後は芋づる式に思い出す――なんて何処かの本で読んだことがあるような気がする。記憶喪失になったとはいえ、百パーセント全ての記憶を喪失する訳ではなくて、一パーセント未満から九十九パーセント以上まで幅広い割合で記憶を失うのが殆どのケースを占めるらしい。とどのつまり、九十九パーセント記憶を忘れてしまっていても、一パーセントの記憶は正常であると言うのだ。そうなると後はパズルのピースをはめ合わせるように、ヒントから記憶の欠片を探し出す。欠片を見つけたら、後はどうにかして記憶が戻ってくるチャンスを窺う他ない。窺うと言っても、それだけで記憶が戻ってくる訳ではないのだから、手を拱いているつもりもなくて、何かしらのアクションを起こさないといけないような気がするのだけれど。
「いや、そうではなくて……。この嬢ちゃんの記憶をどうして元に戻すんだ、と言いたいんだが。宛てはないんだろう? ないのなら、どうやってそれを探す?」
「だから今、ここに来ているんだよ。彼女が残した唯一の手がかりであった、歯車の沢山ある部屋に……ね」
尤も、このスチーム・タートルには幾つか整合する場所があったのだろうけれど……、結果的には一発で正解して良かったな。時間の無駄にならないで良かった。まあ、ぼくは時間にはルーズな方なので、別に時間がどれぐらいかかろうと気にしないのだけれど。夕飯の時間に間に合えばいいや、という感じだ。事なかれ主義と言っても良い。
「それは流石にちょっと違うような気がするけれど……、でも、プネウマちゃんの記憶を戻すために一歩前進して良かったわね。……それにしても、空、か」
そう。
問題を解決したからと言って、それで喜んではいけない……。問題を解決したら次の問題が姿を見せるのは当然のことであって、それを如何にして解決するかが鍵となってくる訳だ。別に制限時間も条件もない訳だから、どのように解いていっても問題ない訳だ。それこそ、邪道と言われる方法を使ったって良いし、正当なやり方でクリアしていっても良い。別に監査や審査や基準を設けている人は誰だって居ないのだから。
「スチーム・タートルで空を見ると言ったら……、それこそ上層街か自衛軍基地に向かわないと不可能じゃない? それとも……このエリアに窓はないのかしら?」
「あったところで外を見て何になる? 嬢ちゃんは空と言ったんだよな。だとしたら、窓から見た景色ではなくて空そのものを見せた方が良いんじゃねえのか? それでどんな記憶が掘り起こされるのかは分からねえけれどよ。……でも、それを考えると、嬢ちゃんは上層街の出身なのか?」
「ん……、どうしてだ? 空を見ることが出来るのは上層街の人間だけ、という安直な理由で言っているのかな?」
「半分正解だけれど、半分不正解だ。……彼女、銀髪に白い肌をしているだろう? この辺りじゃ全く見かけねえ顔だなとは思っていたけれど、もしかして……アルビノなんじゃねえのか?」
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