第二話 鋼鉄の背骨 Steel_Spine.

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 アルビノ?  確か先天性のメラニン欠乏症みたいなものだったっけ。確かに下層街ではそんな人見たこともないけれど……、上層街では珍しくないのかな。 「下層街と上層街では、生き方は全く違う。当然、ベーシックインカムで得られる収入も大きく異なってくる訳だ。それだけじゃねえ。上層街の連中は会社を経営している人間も少なからず居るから……それによる収入だって得ている。まさに天と地の差だ。そういう環境であるならば、下層街では見ることのない存在だってごまんと居るわな」 「……アルビノは確かに下層街では見たことがなかったから、ぼくも本で読んだ知識でしか把握出来ていないけれど……、アルビノは結構差別的な事例が多いんだったっけ?」 「多いってレベルじゃねえよ。……今は政府が法律で差別を禁止しちゃあいるが、それでも裏に出ちまうと、それは適用されねえ。ローカルルールってあるだろう? それと同じだ。今でも過去のようにアルビノを貶す人間は珍しくない。それぐらい価値観が凝り固まっているって訳だ。それだけじゃねえ、アルビノというだけで殺しちまうケースも珍しくねえんだ」 「……彼女はどうして下層街にやって来たんだと思う?」  ぼくは問いかけた。  ぼくもメアリも未だ、追いつけていないその答えを。  当然、リッキーが分かるはずもない、未知の問題を。 「そんなの分かる訳ねえだろ。けれど、はっきりと言えるのは……アルビノであるとするなら、その嬢ちゃんは下層街の人間じゃねえ。上層街の……言い方は悪いだろうが、箱入り娘に近い存在だったかもしれねえ。どうしてそんな嬢ちゃんが下層街にやって来たのか、その理由とやり方については全然想像つかねえし、なんでお前さんが嬢ちゃんを見つけられたのかは全然分からねえ訳だが……、それでもこれだけは言えるな」 「何だ?」 「……嬢ちゃんを、安全な場所に運ばねえと……嬢ちゃんがどういう目に遭うか分からねえ。お前さんだって長年下層街で暮らしていれば分かるだろう? 下層街の人間は常日頃から切羽詰まっていて、相手のことなんて考えられやしねえってことぐらい」  そりゃあ……まあ。  下層街というのは、一般市民が住む空間ではあるものの、上層街と比べると様々な問題が山積している場所でもあった。  例えば、人口密度。上層街の人口密度は公表されていないけれど、少なくとも上層街の三倍以上の人口密度があるんじゃないか、なんて言われている。そりゃあ、富を多く持っている人間が下層街よりも多く居ることは有り得ない訳だから――有り得ないとも言い切れないけれど、そうなったら浮上するのは、下層街への侵略でもある訳で――ともなると、下層街には住居問題が浮上する訳だ。高層マンションを沢山建てればその問題については解決するだろう、と政府の軽はずみな考えで幾つもマンションが建てられてしまっていて、さらにそのマンション同士を繋ぐ通路が網の目のように張り巡らされてしまっている。古い文献にもあったけれど、違法建築を繰り返して独特の見た目を醸し出している、古代遺跡みたいな風貌になってしまっているという訳だ。  
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