第二話 鋼鉄の背骨 Steel_Spine.

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 例えば、収入。これは正直覆しようがないのだけれど……、上層街と下層街とでは、住んでいる人間の収入の差が大きい。あまりにも大き過ぎる。最終的に年収で比べるとゼロが一つか二つ足りないぐらいになってしまうのだ。では、その上層街の人間はどうやって高い収入を維持しているのだろうかというと――簡単に言ってしまうと、働いているからだ。尤も、上層街に住んでいる人間は大体が管理職以上、それも役員クラスなので、あんまり働いているという感じはないのだけれど、デスクワークや監査でその仕事の大半を占めている訳であって、ぼく達が想像出来る範囲を超えてしまっていたりする。役員だと力仕事はあんまりやらないとは思うのだけれどね。もしそれまでやるとしたら、平社員の役目がなくなってしまう。大方、役員になれるぐらいの評価をされているならば、それなりに経験を重ねているだろうし、現場作業をする人間でもベテランの中に入るだろうし。 「まあ、やろうと思えば上層街に行くことは出来る訳だからね。ただし、どうやって受けるかは不明。合否条件も分からないものだから、下層街の人間からは、お気に入りの人間しか受けさせないし合格させない試験だって言われているよね。まあ、多分条件を満たした人間というのは、十中八九合格出来る訳だろうし」  とどのつまり、進級試験を受けるためには政府のお眼鏡にかなった人でなければ受けられないということだ……。そのためには政府に尽力することが必須だろうし、或いは上層街にある程度のコネクションを持ち合わせていないと駄目だろう。後者はなくてももしかしたら合格出来るのかもしれないが、仮に合格出来た後、村八分になるのは目に見えている。だって上層街は文字通り上流階級の人間が住んでいる訳であって、そこに住むだけでステータスになるのかもしれないが、当然、その時点で人生のゴールと決まった訳ではない。仮に七十年生きるとして、三十歳で上層街への進級が決まったら、あと四十年は上層街で暮らしていくことを覚悟しなければならないのだ……。そのためには努力を続けなければならないだろうし、結果も出さなきゃいけない。上層街の人間の苦労は、下層街の人間には分からないのだから。 「上層街と下層街、その仕組みを定めた奴は上層街の人間からは相当絶賛されただろうよ。自分が視界に入れたくない人間をわざわざ追放してくれたんだからよ。……まあ、それは下層街の人間も思っているのかもしれねえけれど。ただ、下層街の人間からは最悪の評価だわな。何せ、この制度は古い時代にもあった農奴に近いものだろうしな。ええと、何だったかな。貴族と農奴だったか? それに照らし合わせるなら、上層街の人間が貴族で下層街の人間が農奴だよな」  あんまり自分のことを農奴だとか卑下したくはないのだけれど――しかし、それが政府から定められているのであれば、致し方ないのかもしれない。別にこの生活に不満がある訳じゃないし。寧ろ働かなくて良い、自分の好きなことをやって生活出来るシステムは最高に素晴らしいものだと思うよ。
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