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ジョーさんは政府のベーシックインカムを自由に使えるお金――遊興費に使っているってことだよな。だから、生活費が全然拠出出来ない。じゃあどうするかというと、ベーシックインカムが出来てからの問題ではあるのだけれど、働けるのに働かない人というのが増えてきていて、そういう人は働かずにしてお金を稼げないかと模索するのだ。働かざる者食うべからず、なんて古い言葉も何かの文献で読んだような気がするけど、しかしながら、それは今の時代だって適用されるかと言われると微妙ではある。ベーシックインカムの趣旨は、好きなことして暮らしていくための補助であって、そこに全くお金を稼げなくても仕方がないよねという話も盛り込んであるという訳。仮にそれを盛り込んであったとしても、一定数はそれを無視してしまって全くお金がありません――なんて人も出てくる訳だ。ぼくみたいに無欲な人間なら、お金は貯まる一方――微々たるものではあるが、塵も積もれば大和撫子とは言うのだ。
「それを言うなら山となる、でしょ……。言葉の前半と後半で意味が繋がらない言葉を、昔の人は使っていたのかってなる訳だし。そもそも大和撫子って何よ。聞いたことはあるような気がするけれど……、最近の言葉じゃないわよね?」
遥か昔の言葉だったと記憶しているが、そんなことも分からないのか?
「分かる訳ないでしょう。わたしを何でも知っている全知全能か何かと勘違いしているのかしら? ……だとしたら、相当滑稽ね。わたしは知っていることは知っているというけれど、知らないことは知らないと言う。……あなたが知っているのよ、ライト」
いやあ、どうだろうね。確かにぼくが知らないことは知らないと言い切ることが出来るし、その逆も然り。しかしながら、それをどう受け入れていくかということについては……、やはりニュアンスの問題かもしれないな。右ハンドルの運転席から見える視界と、助手席から見える視界は全然違うなんて聞いたことがあるし。停止線の位置も、その双方では見える位置が全く違うんだってな。ボンネットがあるからその分が視界になって、いざ停止線で止めようとしても最初は止められないんだって。
「何その限定的な知識……。そもそも、このご時世で車を手動操縦する変わり者って居るのかしら? わたしだって一応免許は持っているけれど、それは最早娯楽の一種だからねー。業種によっては優遇されるとはいえ、その業種はあまりにも限定的なものだし。何でもかんでも自動操縦にしちゃうのは悩みものよね」
「それについては、長々と語るべきタイミングではないのかもしれないな……。だって、ぼく達は全く車を運転しない訳だし。このぼくに至っては免許すら持ち合わせていない」
天衣無縫の唐変木だからな。
「何それ、天衣無縫も唐変木も意味を理解して言っているの? だとしたら相当お笑い種ね。……まあ、何でもかんでもコンピューターに頼っていたら、それこそ全てが終わってしまう訳よ。何かの絵本……漫画って言うんだったかな? あれにも描いてあったわよ。何でも未来人は頭脳ばかりを使うから頭でっかちになり、手足を使わないから手足が細くなって、空気が汚いから鼻毛と髭が伸びっぱなしなんだとか。……古代人は凄いよね。的確に未来のことを想像出来て、それを絵に纏められるんだから。そして今、現代社会の……その頃から比べたら未来人のわたし達が見て、こんなの有り得ないだろとか、よくここまで想像出来たなとか、そういう話に花を咲かせられるんだから」
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