6人が本棚に入れています
本棚に追加
第三話 休憩と計画 Intermission.
軽喫茶ラウンジに足を運んだのは、これで百回目になる――なんて数えきれる訳もなくて、実際にはその回数もほんとうにその回数足を運んだのか分からなくなってしまっているのが実情だった……。ラウンジはぼくの家からそれ程遠くなく、メアリも良く足を運んでいるのだそうだ。メアリとしては探偵としての仕事も順調に続いているために、依頼人との会話をするためにこういう場所を必要としているらしい。事務所でも良くないか、それ。
「どうして余計な言葉を追加するんだか……。それが分からないのよね。もう少しまともな思考で考えていたら、もう少し違った話が出来るんじゃないの?」
「それを言われても簡単に修正できないことぐらい、お前だって知っているんじゃないのか? 知らずにそれを口にしているだけなら、それはそれで問題ではあると思うがね」
「……とにかく、注文を決めてくれないかな。話をするなら、それからでも間に合うと思うのだけれど?」
ぼくとメアリの会話に割り込んできたのは、他でもない。このお店、軽喫茶ラウンジのマスターを務めるヒーニアスだった。ヒーニアスは男のようだけれど、振る舞いは女性である。しかしながら背格好や見た目は完全に男性そのものである訳で――例えば髭は整えられているけれど生やしているし、髪も散切り頭にしていて毛糸の帽子を被っているし――何故だかそのギャップが面白いと言えば面白いのだけれど、しかしながら、このラウンジに客が集まるのは環境だと思う。ヒーニアスの態度と、お店の居心地の良さが関係しているのかもしれない。多分。
「ちょっとそこは確定して言いなさいよ。せっかくわたしが出しているのだから、そこについては明確に判断してもらわないと色々困るのだけれど。……で、どうするの。注文は」
「ぼくはアイスコーヒーを」
「わたしはホットコーヒーと本日のケーキ!」
「はいはい、二人ともいつも通りの注文ね。……で、そこのお二人は?」
ぼくとメアリはぶっちゃけここの常連な訳であって、メニューを見ずとも何を注文するかは決まっているのだ。ぼくがアイスコーヒーで、メアリはホットコーヒーとケーキのセット。因みに本日のケーキというのは、その名の通りであって、マスターであるヒーニアスが毎日自分の手でケーキを作っているからそういう名前が付いている、という訳。まあ、人は見かけによらないよな……。
「……ううん、いっぱいあってまよっちゃう……」
プネウマは今のところ、見た目まんまの反応を示しているようだった……。ここでいきなり、大人ぶった口調や振る舞いをされたらどうしようかなんて思っていたけれど、そんなのは杞憂だったようだ。であるならば、ぼく達も子供のように扱えば良い。ぞんざいに扱うという意味ではない。
「それじゃあ、お嬢ちゃんはココアと……パフェにしてあげようかしら」
「ぱふぇ?」
「パフェというのはね……、うふふ、見てからのお楽しみよぅ」
くねくね踊りながら笑みを浮かべるヒーニアス。よっぽど子供が好きなんだな……。確か前に来たときもそんなことを言っていたっけ。ここを始める前は塾の先生をしていたとか。
塾……簡単に言ってしまうと、学習塾ということになるのだけれど、下層街に住んでいる人間が塾に通える程財力があるかと言われると、答えはノーと言わざるを得ない。そもそも、ベーシックインカムで得られるお金は必要最低限の生活に使うための金額しか渡されていない訳だから……、いわゆるオプションのような感じになってしまう学習塾までにお金をかけられる人間は居ないだろう。
最初のコメントを投稿しよう!