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ということは、とどのつまり、塾を使う人間は金持ちというか、そういう生活必需品以外にもお金をかけられる人間になってくる訳で……当然そういう人間(正確に言えば、その子供)をターゲットにする訳だから、そのためにはやはりそれなりの常識や品格のある人じゃなければならないのだろうけれど、あろうことか、今やこんな風に女性になってしまっているヒーニアスは、学習塾の先生をしていたのだという。しかもそれなりに生徒からの評判も良くて……、先生を取り合いになることもしばしばあったらしいのだ。うーむ、ますます信じ難い。
「何か言ったか?」
何も言っていない。何も言っていませんよ。だからその低音ボイスを止めてくれませんか。それをされると一気に何かしでかすんじゃないかという危険が増してくる。
「だってそういう攻撃をしてきたのは、ライト、あんたの方じゃないか。ここでわたしが攻撃を……いやさ、反撃をしたところで、あんたに悪いと思ったことはありゃしないよ。ある訳ないだろう。わたしだって、そりゃ殴ったら良心が悼むことだってある。あるかもしれないけれど、少なくとも理不尽にそういうことをするつもりはない。あくまでも、それなりの言い分があって初めて攻撃出来る訳だからね。分かったかい?」
……分かった。分かったから、そのソーサーを投げようとしないでくれないか? 明らかにそのフォーム、こちらに投げる気満々だろ。割れたらどうするつもりだ? ぼくだけじゃなくメアリやプネウマだって傷つく可能性もある訳だけれど。
「それについては安心しな。……大丈夫、絶対にあんた以外の被害は出さないようにぶつけてやるよ。これは陶器じゃなくてプラスティックだからね。こういう投げるときには便利なのさ」
「ああ、成る程……って納得する訳ないじゃないですか」
思わずノリツッコミしてしまった。
そういうガラじゃないのに。
「ともあれ、コーヒーを淹れないと何も始まらないわね……。あんたと話をしていると永遠にコーヒーが淹れ終わらない。少しはこちらにも気を配って欲しいものだけれど」
「いやいや……、こっちはお客さんですよ? 別にお客様は神様なんて、昔の古臭い俗説を振りかざすつもりはありませんけれど……」
「俗説じゃなくて実際に存在していた慣わしみたいなものよね。ただし、それは歌手が残した歌……だったかな? そこで語られたフレーズにそういうものがあったんだって。お客様は神様だ――って。しかしながら、何故それが世間一般に浸透して、今じゃ客商売をしている人間は全員そうあるべきだ、という誤ったルールになってしまったのかは……確か文献を読んでも分からなかったような気がするけれど。まあ、都合の悪い事実は隠したがるものよね」
「誰にとって?」
お客様が神様じゃなきゃ困る組織が何処に居るんだか。
「そりゃあ……政府とか?」
そりゃ、お門違いだ。
確かに政府はこの世界唯一の機関でもある訳だから、絶対的な権力を保持している訳だし、それを振りかざそうと思えば平気で振りかざせるはずだ……。それこそ、住んでいる人間のことなんて、無視してしまうぐらいに。
しかしながら、それは絶対に正しくない訳であって、それの正当性を示そうとするなら、政府の反対勢力を皆殺しにしなければ何も始まらないだろう。ラジコンのように右向け右で全て一列に並んでしまうような、そんな生き方が素晴らしいかどうかなんて、火を見るよりも明らかだ。
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