第三話 休憩と計画 Intermission.

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「まあ、それについては分からなくもないけれど……。ただ、今の時代このシステムに不満を持っている人が居るかと言われると、それはマイノリティになると思うのよね。医療費が自費だというところは少々辛かったりするところはある訳だけれど、それについては日頃のケアさえきちんとやっていれば問題ない訳だし。……ベーシックインカムによって、かなり多くの人が救われていたらしいじゃない? どうして昔の人間はこういう制度を早々に導入しようと思わなかったのかしら?」  さあな。もしかしたら財源が確保出来なかったのかもしれないし、ベーシックインカムの利権が絡んでいたのかもしれないし……、政治のやり取りもあったんじゃないかな? 昔は議院というものがあって、その議院は大抵二つあって、一つの勢力が二つとも維持出来ていける程の力は持ち合わせていなかったなんて聞いたことがあるし。そうなったらどうなるかと言うと、Aという議院ではBという政党が勢力を維持していて、Cという議院ではBではない別の政党が勢力を維持していく――そんな状態に陥るのが一般的なのだとか。ええと、何と言うんだったかな、その状態。 「何で肝心なところを思い出せないのよ。それはそれで問題じゃない? ……ただ、まあ、利権が絡んでいたのは確かかもしれないわね。だって昔は今とは比べ物にならないぐらい人が沢山居た訳なんだし、一つの国だけでも今のスチーム・タートル何個分になるか……ってぐらいらしいからね。そのスチーム・タートルだけでもベーシックインカムをやると莫大なお金が必要なのに、その国家だと……、最早想像も出来ないわね。それだけのお金が動くんですから、そのお金で潤いたい存在が居ても不思議じゃない。今は結構ガチガチに制度を固めてしまっている訳だから……、まあ、あまり考えたくはないけれど……、そういう利権は少ないとは思うわね」  そうだろうな……。それをしたらどういう目に遭うかは想像に難くない。やっぱり暴動が起きるんだろうかね。そうなると、わざわざクレームを受けるよりかは安定した政治運営の方が楽なのは誰だって分かることな訳だから……、結果的にそうなってしまうんだろうな。  人員を全て政府で賄ってしまう。  簡単で、スピーディーに行うためにはそれしか方法がない。  ベーシックインカムだけで暮らしている人間がかなりの割合を占めている訳なのだから、それが数日遅れただけで――大変な目に遭う人間は数多いだろう。ぼくだってその一人だったりする。流石に一日遅れたぐらいじゃ大丈夫かもしれないけれど。 「どうだか。あんた、意外とお金に関してはルーズだし。……意外でもないか」  失敬な。これでも借金はしていないんだぜ? そりゃあ、計画性がないと言われたらそれまでだけれど、流石に宵越しの金は持たないとか、昔の人間みたいな価値観は持ち合わせてはいない。 「昔の人間もそんな価値観を持っていたかどうかは分からないけれどね……。でも、お金はないと困る訳だから、持っておかないといけないのよ。わたしだって、探偵の仕事をしている訳だけれど、これが儲かるかと言われると……はいそうです、なんては言えない訳で。儲かっていたら、もっと生活も楽になるんでしょうけれど、そうはいかないし」  そうなのか。好きだから儲かってなかろうが――極端に言えば赤字でも――やっていったのかと思っていたぜ。赤字でも、利益が少なくても好きだから仕事をやる。それがベーシックインカムを始めた時の政府の意向じゃなかったっけ?
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