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「第一、三級市民がそのまま一生を終えるなんて十二分にあり得ることなんだしさー。そりゃ進級試験ってものはあるらしいけれど」
進級試験。
要するに、三級市民から二級市民へ、二級市民から一級市民への進級が出来る特別な試験のことだ。その試験をクリアすると、一つ上の等級に上がることが出来るらしい。
らしいというのは、今までそんなことを開催している様子がないからだ。
もしかしたら対象者には秘密裏に知らされていて、我々のような対象者以外の存在には知られないようなやり方をしているのかもしれないけれど。
だとしたら、それは平等でも何でもない。
ただのエゴだ。
「……実際、裏金を渡すことで試験への融通を利かせてくれる、なんて話もあるぐらいだしねー。まぁ、それはあくまで噂だし。実際にやっている人を見た訳ではないけれど」
もしほんとうにそんなことが行われていて、それを目撃したり第三者に漏洩した人物が居たとするならば、きっとその人間の素性はあっという間に明らかにされて、あっという間に指名手配されて、あっという間に処刑されてしまうだろう。
過ぎた罰かもしれない。
しかし、規則を守るためには犠牲はつきもの――とは言い切れない。
「犠牲がないと成り立たない規則ってのもどうかと思うしねえ……」
「そういうメアリはどうなんだよ? お前は、その少女を放ったらかしにしてほんとうに良いと思っているのか?」
だとしたら、心外だ。
「別にそんなことは思っていないよ。実際、我々三級市民からしてみれば、普通に暮らしていくのも精一杯っていう状態なのにさー、そんな得体の知れない物を預かろうっていうのがお門違いって話だったりする訳だよ。だって、ライト、一日幾ら貰っているのさ?」
「……三千ルビー、だったかな」
ルビー。それはこの国家においての通貨単位だった。かつては世界で百を超える位の通貨があったらしいけれど、それも昔の出来事。今はそうこう言っていられる状態でもないし、通貨を統一した方が何かと楽なのだろう。結果として、今はこのルビーという単位が用いられている。一ルビー、十ルビー、百ルビー、五百ルビーはコインとして、千ルビー、五千ルビー、一万ルビーは紙幣として流通している。尤も、一日三千ルビーしか貰っていないぼくにとって、五千ルビーから先の紙幣は大金であって、滅多に見ることはないのだけれど。
じゃあ、具体的に何千ルビーあれば一日暮らしていけるのかという話だけれど――それはそれぞれの生活水準による、としか言いようがない。ぼくみたいに節制を心がけている人間だったら、三千ルビーあれば普通に暮らしていくことが出来る。しかし、一級市民ともなれば、一日数万ルビーあっても足りない、なんてことがあるらしい。一万ルビーですら、ぼくの日給の三日分だというのに。
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