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どこで差が付いたのだろうか。
答えは分かりきっている。それは生まれた時だ。
いや、もっと言えば生まれる前から定まっていたことなのかもしれない。
この制度がいつ導入されたのかは最早覚えていないけれど――少なくともぼくが生まれる前からの物であることは間違いない。そして、その制度は今後生まれていくはずの子供にも適用されていく物なのだ。
つまり、一級市民の子供として生まれれば一級市民、三級市民の子供として生まれれば、三級市民からのスタート。
格差は生まれる前から、始まっているのだ。
「三千ルビーかあ……。分かりきっていたけれど、わたしと同じだよね。まあ、三千ルビーあれば困らないし、実際、働かなくても暮らしていけるのは大変有難いことではあるけれどさ」
ベーシックインカム、という言葉がある。
要するに労働をしなくても政府が暮らしていくのに充分なお金を支給しますよ、という制度だ。その導入によって、殆どの市民は労働をしなくても暮らしていけるようになった。
しかし、それはあくまでも最低限度の生活をしていく上の資金。
もしそこから贅沢をしたいと考えるのであれば――そこからは自分の努力。
つまり、労働は最早強制ではなく、オプションの一つに成り下がっているということだ。
「でも、仮に彼女を匿うとしたらかなり面倒臭いのは、最初から分かりきっていたことではあるんだよな……。月に一度、調査員がやって来るだろう?」
「ああ……、国民の生活状況を把握してそれを支給に反映する――ってスタンスの奴だったっけ? それがどうかしたの?」
「彼女、電子時計を持っていないんだよ」
電子時計には、保険証や個人番号といった個人情報――かつてはカードとして持っていたらしいけれど――が記録されている。つまり、常にそれを付けてさえいれば、仮にぼくが殺されても直ぐにぼくが誰であるかを判別することが出来る、という訳だ。
何だか嫌なたとえだな。
自分で言ったんだけれど。
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