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「それなら、何処かで聞いたことがあるよ。第三都市はかつて世界の大半の人間が崇拝していた一大宗教が未だに残っているからなんだって。その宗教は歴史的に見ても価値が高いから、残さざるを得ないんだとか。何処までほんとうなのかは分からないけれどね」
聞いた話をそのまま言っているんじゃないのかよ。
いずれにせよ、宗教というのは弱った人間のよりどころ、なんて話も聞いたことがあるし、何処までほんとうなのかどうかは分からない。
この現世での経験は、神が与えたもうた試練である――なんて何処かの宗教で教えているなんて聞いたことがあるけれど。
実際、ほんとうにそうだとしたら、神って何処まで人間に厳しいんだろうか。
「……はぐるま」
そこで――彼女が唐突に口を開いた。もしかして、何か思い出したのか?
「……歯車? 歯車って、あの歯車よね? 動力を他の場所に伝えるために、歯が付いている車……だったよね?」
それ以外に何があるんだ。
ぼくもそれ以外想像出来ないし。
「……うーん、しかし、仮に歯車がその『歯車』だとして……、どうしてそれを思い出したのかしら? ねえ、もっと何か思い出せない? 歯車以外に」
「はぐるま……がいっぱい。ぎしぎしうごいているの」
「歯車が一杯……か」
だとすれば、機械室?
もしかしてこんな見た目で機械技師だったりするのか?
「機械室に幽閉されていたけれど、用済みになって捨てられた――とか? だとしても意味がないような気がするわね。だって、それは明らかに無駄だもの。幽閉していける環境があるなら、ずっと幽閉していれば良いだけの話なんだから。それをしないでわざわざ捨ててしまうのは……きっと何らかの理由があるはずよ」
「それは探偵としての勘?」
「理論立てて説明したはずだけれど?」
さいですか。
「しかし、全く情報がないって訳でもない。……ただ、謎は生まれてしまっているけれど」
「そこを何とかするのが探偵の仕事だろ。……ほら、探偵は足で稼ぐ、だっけ? そんなニュアンスの言葉とかなかったか?」
「わたしの憧れは、部屋から一歩も出なくても事件を解決出来る探偵なのよ……」
何それ、ニートと何も変わらないじゃないか。
いや……、何か何処かで読んだことがあるな、そのジャンル。確か安楽椅子探偵って言うんだったっけ? しかし、それになりたいなんて変わっているよな、メアリも。だったら別に仕事をしないという選択肢だってある訳だし……。
「とにかく、先ずは情報収集と行きましょうかね」
「何か見当でも付いているのか?」
ぼくの家を出ようとするメアリは、けろっとした表情でぼくを見る。
「いいや、全く」
見当が付いていないのに外に出るのかよ。
見切り発車にも程がある。
「だって、動かないと何も始まらないじゃない。動かないでこの状況で事件が進展するなら、わたしは全く動かない。だってそれでお金が貰えるなら、そっちの方が良いんだもの。実際、探偵なんてろくな仕事が入ってこないしね。大抵は便利屋扱いされるのがオチよ。ライトぐらいかしらね、ちゃんと探偵としての仕事をくれるの……。もしかして、あんた、受難体質でもあるの?」
「失敬な。そんな体質、出来ればとっくに捨て去りたいぐらいだよ」
「否定はしないのね……。まあ、良いわ。とにかくあなたも付いてきなさい。探偵には優秀な助手が必要だからね。何だっけ、かつての名探偵も医者の助手を連れていたんだっけ。戦争で負傷した医者だったと記憶しているけれど……何という名前か忘れちゃった。とにかく、助手くん宜しく頼むよ」
依頼しているのはこっちなんだけれどな?
ってか、ここにあの子を放置して良いのかよ。
「勿論彼女も連れて行くわよ。実際に見せないと、何も分からないでしょうし」
そういう訳で。
推理開始、といったところだ。
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