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プロローグ
──どうして。
「どうして、魔法が使えないの……」
ひっくり返った馬車の傍で幼いミーラは絶望していた。
「M」の魔法名は確かに彼女自身に授かっているはずなのに、どういうわけか何も起こらないのだ。
「癒せ、癒せ、癒せ!! 癒せと、言っているでしょう!!」
何度も何度もミーラは叫んだ。己に与えられたばかりの呪文を。だが、目の前に横たわっている彼女の両親は目を覚ますことはなかった。……そう、一生。
みるみる冷えていく両親の体。血に染まる自分の手。自分を責めるような鋭い雨の槍。その全てが絶望に染まる彼女の脳内に刻みこまれていく。
──この日、ミーラは何もできないまま、心から愛していた両親と死別したのである。
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