第二話 私服の猫巫女 〜十八戦目で枕を濡らした〜

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第二話 私服の猫巫女 〜十八戦目で枕を濡らした〜

 猫巫女(ねこみこ)として活動する事になったとはいえ、放課後まではなにか変わったという事はなく、いつも通りの日常を過ごしている。  崩れ去ったと思われた日常だったけど⋯⋯。  まあ、本当のところは私から学校生活には干渉しないで欲しいとラオシャに強く主張し、その代わり放課後には必ず猫巫女活動をすると約束を交わしてお互い了承をしたのである。  学校が終わって帰宅した私は課題と夕食を済ませた後、寝る前の数時間、ゲームの中の悪魔に向かって片手に盾を構え、もう片手に直剣を振るっていた。  左右前後にキャラクターを動かし、両手の装備を時には回復アイテムを使い、時には敵を誘導するアイテムを投げる。攻撃を避ける時にはローリングをする。  たったこれだけなのに何故こんなにも熱くなれるのだろうか。  たったこれだけなのに何故こんなにも深みにハマれるのだろうか。  改めてこのゲームに対する奥深さを感じる。そんな中、私はふと猫巫女に対しての疑問が浮かんできた。  探索を進める手を動かしながら、優雅に私のベッドの真ん中でおっさん座りを決め込んで毛繕いをしている、成人男性の声帯を備えた変な喋る猫に疑問を投げかけてみた。 「そういえばラオシャ。昨日は勢いで色々決めちゃって何も聞いてなかったんだけどさ、迷魂って全部でいくついるのかな?」  ラオシャは口を開き淡々と答え始めた。 「⋯⋯ワシに与えられている情報によれば、全部で十二体じゃな」 「あー⋯⋯良かったかも。ホントに勢いで全部って言っちゃったから、ちょっと不安だったのよね」 「⋯⋯そうは見えんがな⋯⋯。せめてゲームをやる手を止めたら──」 「考えてるよ。考えない訳ない、だって一つ目の子供の迷魂の事、まだ何処かで引きずったままだし⋯⋯」  ポーズ画面を開きコントローラーをそっと膝の上に置いて私は、未だ拭えない思いを打ち明けた。  後悔した訳じゃない。同情した訳でもない。ただ真っ直ぐな思いで、悲しい記憶を抱えて彷徨っている迷魂を、放ってはおけなかったんだ。  私が助ける立場でいる限り、せめて記憶を共有し合って痛みを和らげてあげようと思ったから。 「だから色々と考え事をする時には、こうしてモニターと向き合って、黙々と頭の中を整理して、スッキリさせる。まあ猫巫女やる前からやってた事だけど、考え事が増えただけだし⋯⋯」 「ただ娯楽を楽しんでいたのではないのか⋯⋯ふむ。早めに忠告しておくが、いつまでも抱え込んだりはするなよ。あくまでこれはワシの仕事なんじゃから、お前はいつも通りでいる事が一番なんじゃ」 「⋯⋯ありがとう。あ、もう一つ質問あるんだけど」 「なんじゃ」 「なんで猫巫女を通してじゃないとその力は使えないの?」  ラオシャはおっさん座りを辞めてベッドから降りると、私が向き合っていたモニターの目の前へ移動した。 「単独で力を使う事を封印されておるのじゃ。その証として、ほれ。首輪がされておるという事よ」 「そういう事だったの⋯⋯ん? て事はやっぱり飼い主さんがいるんじゃ?」 「人には飼われておらん、同じ猫にな。お前たちと同じ親のような存在がワシたちにもいて、首輪はその親から付けられるのだ。首輪はただ力を封印する為だけのものではなく、首輪に付いた鈴が猫巫女を紡ぐものになっておるのよ」 「親猫から付けられるって事は、結構前から猫巫女と猫の歴史があるって事だよね。でも、私のお婆ちゃんからもそんな話は聞いた事ないなあ⋯⋯」 「それは⋯⋯ま、全ての迷魂の送り迎えを完了した時に教えてやろう」 「勿体ぶるね⋯⋯まあ良いよ。じゃあどいて。今からめっちゃ強い炎のボスを倒すんだから」  私はラオシャを軽く持ち上げ床に降ろしてから、再度コントローラーを両手に持ちゲームを再開した。未だ倒せていない橋の上のデーモンを倒さなくては次に進めないのだ。 「はあ⋯⋯今日は何回目で枕を涙で濡らすかの⋯⋯」      ✳︎  翌日、放課後から帰った私は私服に着替え、ラオシャと共に町を見渡せる高台まで来ていた。  あと数日も経過すれば気温も更に高くなり、日差しも肌を焦がすほど熱く突き刺さり、季節は夏の真っ只中へ突入する。  初めて迷魂を送り迎えした日はまだ長袖のシャツで平気だったが、昨日辺りからどうも気温の変化が激しい。明日には制服も半袖で過ごす事になるだろう。いつもおさげにしている髪も後ろに結んで、少しでも涼しく過ごしたいものだ。  服は今日は動くのであまり着飾らず、大きめの白のメンズTにクロップドカーゴパンツを揃え、水色のスニーカーを履いて完全に夏に備えた格好にしておいた。  それはさておき⋯⋯。 「分かってたけど、熱いんだよね⋯⋯ラオシャ、これなんとかならん⋯⋯?」  私の頭の後ろにくっついているラオシャが熱くて堪らない。感触は心地良いのだが、これが終わった後抜け毛がこびり付いているのだと思うとちょっと辛い。 「天眼と送り還しの時だけじゃろ⋯⋯少しくらい我慢せんか⋯⋯」 「猫巫女で熱中症とか私嫌だからね⋯⋯」 「ま、ワシとの信頼が増せばこの基本スタイルにも応用を効かす事が出来るじゃろうが⋯⋯。では行くぞ、まずは天眼じゃ」    額に当てた肉球をギュッと押し込み、ラオシャから私へと力を流す。  私の瞳に星模様が溶け込むのを感じる。ふと今の自分の様子を見てみたくなり、持って来ていた手鏡で天眼使用時の私の顔を覗いてみた。 「星が⋯⋯」  瞳の真ん中で、青白く輝く星模様が大きく浮かび、その後ろには夜空の星のように小さな星々が輝きを放っていた。あの大きな星模様は私の知っている星とは大きく違う、ゲームに出てくる少しイカした星のアイコンのようだと私のゲーム脳を少し刺激させる。  手鏡の奥で感動していると、私の後ろで肉球を押し付けて力を発動しているラオシャが口を挟んで急かしてきた。 「他の猫巫女も、天眼を使っている時の眼を見た時には宇宙みたいだと必ず言うとったな。さ、堪能し終えたなら早く迷魂を探すのだ。あまり長時間使うと腹が減る」 「おっとそうだった⋯⋯じゃあ、見渡すよ」  夜空のようになっている私の瞳で町一帯を、青く揺れ動く反応を見つける為くまなく見渡す。すると少し入り組んだ路地のところで揺れ動いているのが確認出来たので、私は察知した場所を指差しながらラオシャに報告をした。 「見つけた。えっと、ちょっと遠いけど入り組んでる路地裏のとこ。ここからだと走って十分くらいかな」 「よし。ではそこへ向かうぞ」 「うん!」      ✳︎  迷魂がいるであろう路地の手前まで来た私たちは、猫巫女の仕事をする前に水分補給をしながら近くのベンチで涼んでいた。 「ん⋯⋯ん⋯⋯っはあ⋯⋯あ、暑い⋯⋯。今日なんでこんな暑いの⋯⋯ありえへん⋯⋯」 「年々暑くなってきとるとはいえ毎年想像を超えてくるな⋯⋯干からびてしまうな⋯⋯」 「汗で服が⋯⋯帰ったら真っ先にお風呂やな⋯⋯」 「飲み干したら路地へ向かうぞ。短時間で終わらせたいものだな⋯⋯」  夕陽のオレンジが町を包み込む。休憩を終えて、私たちは小走りで迷魂のいる路地裏に入っていった。しかし天眼が解かれた段階では私の目では捉えることが出来ず、探査はスムーズには行かなかった。 「ら、ラオシャ。迷魂、どこ⋯⋯」 「近くにおれば私でも感知できるが⋯⋯そうか⋯⋯天眼から休憩も挟んだからな。お前は既に見えなくなっておるか」 「前は天眼を使ってすぐに自転車で迷魂のところまで来れたからうっすら見えてたけど、今回全くダメだ⋯⋯」  足を止めていると、ラオシャは私の肩へ昇ってきた。 「仕方あるまい。二度目の天眼を使う。小夏よ、少し身体が重たく感じるやも知れんが、耐えるのだぞ」  そう言うと私の肩から頭へと移動し肉球を当てた。 「大丈夫、ここで迷うよりマシだと思うから」 「うむ。では⋯⋯天眼」  瞳に星を宿る。私はぐるっと身体ごと視点を動かした。そしてすぐ、私の後ろの方向から続く路地のところで揺れ動く迷魂を確認出来た。 「もふもふがあつい⋯⋯ハァ、うん見れた⋯⋯行こう」  天眼を終えてラオシャは私から降りると、すぐさま忠告を口にした。 「無理はしなくても良いぞ、期限なぞ設けておらぬのだからな」  「ううん、このまま行くよ。行って迷魂を送り迎えしなきゃ」 「ふむ。大丈夫なら良い、では行こう」  身体の重みを多少感じながら、迷魂のいる路地へと向かった。天眼を使った事により私の視点からも迷魂を確認できたので、そこからはスムーズに迷魂を探し出すことが出来た。気づかれないように、迷魂が見える少し遠くで待機する。 「よし! 見つけた! じゃあ、鈴の中に収めるんだよね」 「うむ、手を振っておくのだ。そしたら私が⋯⋯お、おい、待つのだ!」  迷魂をようやく見つけ安心していたのだが、私たちが迎え入れる前にユラっと迷魂がすごい速さで動き出して、路地裏に建つ建物を貫通して私たちから一瞬で遠ざかっていってしまった。 「うええ!? は、はやっ⋯⋯! ど、どこ行ったの? 待って!」 「早く追うんじゃ、ワシだけ追いつけても意味がない!」  急いで迷魂の逃げた先を追って走るも見当たらず。もっと遠くまで行ったのだろうかと、天眼がまだ残っているうちに顔を左右に動かしながら路地裏の道を夢中で駆けていると、迷魂捕まえる事叶わず気付けば路地から外へと出てしまっていた。  マジか、こんなにも走ったのに迷魂の姿もなにもない。  走り疲れた私たちは近くの壁へ寄りかかり、息を整えながら状況を判断する事にした。 「はぁ、はぁ⋯⋯。えっと、逃しちゃった、ね⋯⋯。天眼の効果も途中で切れてたかも⋯⋯」 「ああ⋯⋯。猫巫女の仕事、残念ながら失敗じゃな。小夏の体力も限界であろう、後日仕切り直すぞ⋯⋯なにか策がいるやもな」 「でも、まだ近くにいるかもしれないし⋯⋯」 「お前は馬鹿か、おのれの体調も把握出来んでどうする。迷魂を優先する必要はない。さあ、早く帰るぞ」 「⋯⋯分かった⋯⋯そうする⋯⋯」  ラオシャの言う通り、その日はゆっくり家へと帰ることにした。  それまでの静寂は、私たちを少し涼しくさせた気がしたんだ。  私は二度目にして、猫巫女の仕事を失敗してしまうのでした。      ✳︎  とぼとぼと路地裏から家へ帰った私はラオシャと言葉を交わす事なく浴室へ向かい、沈み切った顔と共に身体の汗を流した。 「⋯⋯常に迷魂が見えてたらな⋯⋯」  シャワーを上から浴びながら思考を展開する。結論はすぐに導き出せた。しかしそれは私の実力不足が殆どだ。ラオシャには落ち度など全くない。    天眼による探査は成功している、位置も特定出来ていた。しかしその後の捜索はラオシャの感知に頼る他無く、肝心の送り迎えが出来ないまま逃げられてしまった。 「⋯⋯」  二度目の天眼による疲労が私の身体に重石としてのしかかり、思考を遮ってしまう。 「ダメだな〜⋯⋯ラオシャにも相談しよう」  ゲームをする気分も失った私はシャワーを止めて、浴槽の中、再度考え事を整理しながら身体に一時の休息を浸らせた。  お風呂から上がった後は色々事を済ませ自室に戻った。私のベッドにラオシャを乗せて、横になりながら今後の事を相談する事にした。 「⋯⋯ねえ、天眼を常に発動させておくとか、今の私に出来たり、する?」 「今のお前には出来ぬな。ワシの力にお前の身体が耐えられぬ。二度目の天眼でそれは味わっただろう。暑さも相まって、路地裏を走っただけで大幅に体力を消費してしまっている」 「⋯⋯それじゃあ、猫巫女として鍛えられたりはしない? そうすれば、ラオシャの力にも耐えれたりするでしょ?」 「残念じゃが、人間に定められた猫巫女の才能は生まれた瞬間から決定づけられている。その為鍛えても大きく変化する事はない。じゃが、才能という器の範囲内でなら、応用を効かせることは出来るじゃろう」 「? その、応用ってのが分からないんだけど、例えばどういう事が出来たりするの?」 「いちいち基本スタイルを取る事なくワシの力を身体へと流し、猫巫女側の任意のタイミングで発動出来る、とかな」 「じゃあ、今後はそれが課題だなあ〜、はぁ〜」 「努力あるのみじゃな」  努力っていってもなにをすればいいのやら。  ため息をついて、後頭部にフィットさせていた枕を顔の前へ持って行き、枕越しに言葉を吐き出した。 「でも確かに、ラオシャのこびり付く毛から卒業出来るし、一石二鳥やね⋯⋯」 「⋯⋯艶には自信があるのだが⋯⋯む。小夏よ、一つ良い案があるぞ」  ラオシャがなにか思いついたように目を輝かせると、私のお腹へと移動して座り込んできた。まだ小さいとはいえ圧迫感がある、重い。 「ぐえっ⋯⋯なに、なにかあるの?」 「ふふふ、それはな」      ✳︎  休日、私とラオシャは姫浜(ひめはま)町の一番上にある駅から電車に乗って揺られていた。今日は迷魂を追わず対策をするんじゃと、昨日の夜隣町へ寄る事をラオシャが提案してきたのだ。  私は言われるまま隣町に降り、少し進んだ先の、段差の多い住宅地へと歩みを進めていた。  ここに猫巫女に関係するなにかがあるのだろうか。 「で、隣町のこんなところに来てどうするの? なにかあったり?」 「うむ。この町を担当している猫と猫巫女に会いにいくのじゃ」 ──それは全く聞いていない。  私は言葉も出ず真顔のまま、数秒間フリーズした。 「住宅地にひっそりとある店が確か、猫巫女の住む場所だったはずじゃ。そこへ向かうぞ」  フリーズした顔を解き、横で呑気に歩いているラオシャの顔をこねくり回した。 「それ私聞いてへんねんけど〜? ラオシャ〜? えっ、て事は猫巫女の先輩に会うって事やん、今から!?」 「や、やめんか、ほっぺが⋯⋯。そ、そうじゃ。こういう時は他の猫巫女に助けを求めるのが手っ取り早いと思っての、お前が寝ている間に隣町の猫と直接連絡を取り、今日来る事を伝えたという訳じゃ!」 「なんなん急にそれは⋯⋯」  突然の打ち明けにまだ動揺が隠せず、頭をかかえながらグルグルとその場を回ってしまった。帰ったら言いたいこと一杯言ってやるぞ。 「回っとらんでいくぞ。このまま真っ直ぐいけば、猫巫女がおる店じゃ」 「次からは予め言っておいてね⋯⋯」  身体で円を描くのを止めて、直線に切り替える。  確かにギリギリ視界の向こう側に、ストライプ柄のオーニングが見える。恐らくそあの店に猫巫女が居るのだろう。  歩きながら、見えてくるお店の外観を眺める。  雰囲気だけでいくと、いわゆる隠れた名店を彷彿とさせるような佇まいであった。 「おー⋯⋯あんま一人じゃいけないな、こういうお洒落な感じのとこ⋯⋯」  お店の前で足を止めて、再度外観を観察してみる。  するとそのお店は二階建てなのか、上から下からまで観葉植物たちで飾り付けが施されており、扉に掛けてある一枚の木製のプレートには『やってます』と一言書かれているだけ。店名は観葉植物で覆い被さっており『──am』と、殆ど読むことができない。 「やってますって⋯⋯ここで本当にあってるの?」 「そのはずじゃ。ほれ、入るぞ」 「全然躊躇せんやん⋯⋯よし、お邪魔しま〜す⋯⋯」  ゆっくりと木製の扉を開き、私はそのお店の中へと足を踏み入れる。反応した小さなカウベルたちが店内に鳴り響き、私たちを歓迎してくれた。そして入ってすぐに、珈琲豆から発せられる匂いが鼻孔をくすぐった。  店内を見渡すと、珈琲豆を詰めた瓶や袋が、あらゆる箇所に設置された木の籠と棚一杯に置かれていて、一言で表すのであれば、まさしくそこは珈琲豆を売っている専門店の空間だった。 「凄い⋯⋯珈琲の良い匂い⋯⋯」  店内を見渡しながら真っ直ぐ足を進めていると、カウンターの方まで来れた。  そのカウンターには袋に入った珈琲豆が数種類まとまって置いてあり、その横には恐らく少し前に淹れたであろう珈琲が湯気を立ちあげて放置してあった。使い終わったフレンチプレスもカウンターの奥で確認出来る。しかしここまで珈琲に関する道具がいくつかあるものの、肝心の人が全く見当たらない。 「もしかして留守かな」 「留守なら扉のプレートをひっくり返すなりするじゃろう」 「でも誰も居なさそうだし⋯⋯一旦外に出てみる?」 「ふむ⋯⋯ん、足音が上からするぞ」 「え?」  再度改めようとしたが、確かにカウンターから左の階段を降りてくる足音がこつこつと聞こえて来た。  降りてきたのはエプロンをしたスタイルの良い女性だった。そして私たちにすぐに気づくや否や、来るのを思い出したように声を気怠く発しながら、その腰まである明るい栗色の髪をかき上げて口を開き始めた。 「あー⋯⋯そういえばユー君が言ってたな⋯⋯どーも、キミがなりたての猫巫女?」 「あ、はい⋯⋯! 小夏と言います! で、こっちの変な猫がラオシャです」 「変とか言うな」 「うん。アタシは梵彼方(そよぎ かなた)。この喫茶店のマスターで、この町の猫巫女をしてる。相方のユー君はさっきまでいたんだけど、アタシに全部投げて迷魂を探しにいっちゃった」 「ね、ねぇラオシャ⋯⋯ちょっと」  エプロンを外しながら喋る彼方さんを見て、私は勢い良くしゃがみ込み、ラオシャにコソッと小声で報告した。 「ん?」 「わ、私この人めっちゃくちゃ好みかも⋯⋯」 「それは知らん」  知らんとか言うな。  彼方さんの顔の良さ、スタイルの良さ、ダボっとした白基調のストリート系の柄が入ったメンズT、恐らくショートパンツを履いていると思うがあの一見履いてないように見えるそのファッションセンスが完全に私のツボで、彼方さんに対して好き以外の感情が生まれてこない。  自分から溢れ出す感情に溺れそうになっていると、また上の階から颯爽と今度は猫が降りて来た。  さっき彼方さんの言ってたユー君という猫だろうか。カウンターの上へ乗り彼方さんのそばまで近づくと、当然のように人間と同じ言葉を話し始めた。  その猫は、私でもよく見かける白黒茶の三つの毛が混在している三毛猫で、なんとも愛らしい顔をしている。流石彼方さんの猫だ。  ラオシャと同じ仕事でやって来た猫だろう、彼もまた男性から発せられる低くて鈍くて、ラオシャよりダンディな声色をしている。流石彼方さんの猫だ。 「あれユー君、早いじゃん。どう? 見つけてきた?」 「ああ、すぐ隣の路地裏の広場で確認出来た。そしてこいつらに見てもらうにもちょうどいい場所だろうな」 「よし。じゃあそういう訳だから、キミたちもいくよ」  そう言うと、彼方さんは置いてあった珈琲を飲み干して外へ歩き出していった。 「え、え?」 「アタシのやり方を見た方が早いっしょ。ほら、分かったらキミたちも外出るよ〜。ユー君は適当に寝てて」 「ま、待って下さい〜!」  急な事に動揺を隠せないまま、彼方さんの後ろを追いかけるように目的地へ向かった。ラオシャは私に続いて横を歩いている。  目的地に向かう最中で私は彼方さんに幾つかの質問をしようと声をかけてみた。 「あ、あの、私は──」 「ユー君から聞いてるよ〜。迷魂逃してどうしようって事でしょ。アタシも最初はそうだったし⋯⋯でもアタシと違って、そのすぐ後に先輩の猫巫女を訪ねるのはナイスだね」 「猫巫女は長い事やられてるんですか?」 「アタシが大学生の頃からやってるから、もう四年かな〜。ま、この町わりと迷魂多い方らしいから、その分長い事かかってるんだけどね。キミの町はどのくらい?」 「十二匹って、ラオシャ言ってたよね?」 「そうじゃな」 「へえ〜、全然少ないね。良いな〜一年もかからなさそう」  後ろにいて表情が分からないが、声色が少し跳ねているのが分かる。四年も猫巫女を経験していると色々な出来事が起きていたのだろうか、本当に羨ましく思っていそうだった。 「ところで彼方さん、猫を連れていませんけど、良いんですか⋯⋯? 猫から力を使うんじゃ⋯⋯」 「ああ、アタシ、ユー君の力を身体の中にストックしてあるから、一緒に行動してないんだよ」 「え、ええ!? ストックって、そんな事まで出来るんですか!?」  予想を越えた彼方さんの回答は、私の目をこれでもかと真丸にさせ声を唸らせた。 「最初はユー君任せで力を流して使ってたけど、アタシ就職とか色々あったからさ。ユー君がいない時でも対処出来んかなと思って、色々工夫していって、最終的に珈琲の中にユー君の力を混ぜ込んだのさ」 「店を出る前に飲んだ珈琲がそれだったんじゃな?」 「そういうこと⭐︎」 「か⋯⋯カッコいい⋯⋯」  彼方さんへの憧れゲージが一杯になり思わず声が漏れ出てしまった。それにしても力をストックしておく発想はなかった。今後私もそうして工夫をしていくのだろうか。      ❇︎  目的地へ着く直前、私たちも迷魂がみえるようにと天眼を発動させると、それを見ていた彼方さんが懐かしんでいた。 「アタシも最初それやってたわ〜。毛がこびりつくわ肉球の跡が額に残るわで面倒だよね〜」 「そうなんですよね⋯⋯私も暑い中これやるの嫌なので、早く応用を身に付けたいです」 「最初気に入っとったじゃろ⋯⋯」  話しながら、目的地の路地裏の広場に着き、迷魂もそこで視認出来た。彼方さんの猫が言ってた通りだ。 「いたね。じゃあ見ててよ、すぐ済むからさ」  既に彼方さんは天眼を発動していたようで、私の方へ振り返ると既にその目には夜空と星を宿していた。 「小夏ちゃん、今から見せるのは、逃げようとする迷魂を捉える時の応用だから。真似しようとせず、どういう形で捉えたいかは小夏ちゃん自身が考える事。いいね?」 「は、はい⋯⋯分かりました」  彼方さんは私にウインクすると、ゆっくりと迷魂に近付いていった。そして両手を小さく広げながら、ラオシャのようになにかを唱え始めた。 「術式開示、守人一の式 (しゅじんいちのしき) 赤楼(せきろう)」    そう唱えると、彼方さんの左手が光を帯び、薬指から指輪が出現した。しかしそうしている間に迷魂は建物をすり抜け逃げようとしている。 「彼方さん、迷魂が逃げちゃう⋯⋯!」  すると今度は指輪が赤く光り始め、迷魂を自身の方へ吸い寄せていく。吸い寄せると今度は彼方さんの頭上から光のサークルが出現し、迷魂と彼方さんを囲い始めた。  目を瞑り、手を添えながら、迷魂に向けて祈るように唱えた。 「キミの道を指し示し、願いを叶えよう。守人ニの式 白祝福(ギフト)」  迷魂が白く光り出して、そのまま空へ昇っていった。 「迷魂を捉えて、そのまま送り迎えまでしてる⋯⋯」  瞬きを忘れたまま、サークル内で迷魂を鎮めた彼方さんを見つめていた。私のやり方なんて初歩中の初歩だったと、この一瞬でもう思い知った。  熟練の猫巫女は、こんなにも自由なんだ。  空へ昇った迷魂が見えなくなると、囲っていたサークルが消え、彼方さんはこちらに笑顔を向けながら左手を顎まで持っていき、ピースサインを作ってみせた。 「まあ、こんな感じ⭐︎」 「ゔっ⋯⋯か、カッコイイー!」 「そのまま送り迎えまで済ますとは、凄いのう」  衝撃と彼方さんの可愛さで語彙力が消失した。同時に憧れも強くなり、全身で彼方さんとの出会いに感謝した。      ✳︎  彼方さんは迷魂を還した後、私たちを見送りたいと駅までついて来てくれた。 「すみません! わざわざ駅まで⋯⋯」 「良いの良いの、せっかく可愛い後輩に会えたんだもん。あっそうだ、小夏ちゃんにこれ、渡しておくからね」  すると彼方さんはポケットからレンズのような物を取り出して、それを私に渡した。 「ありがとうございます⋯⋯これって⋯⋯モノクル、ですか? でも⋯⋯」  彼方さんに渡されたモノクルはフレームが黒く、羽のような装飾がテンプルに施されており、銀色の小さなチェーンが付いている。が、ただこの道具における大事な部分が一つ欠けている。 「そう、レンズが付いてない。ただお洒落する為の、伊達眼鏡ならぬ伊達モノクルってね」 「は、はあ⋯⋯でも、どうしてこれを?」 「アタシも最初の頃、ユー君の毛が付くのが嫌でさ。ユー君の力を間接的に取り入れたいって色々試行錯誤していって、暫く愛用していたのがそのモノクルなんだ」  彼方さんの話を聞きながら、私は手渡されたモノクルを片手に見つめていた。  これを活用していたのかと感心しながら、私にもこれが使えないか考えてみる。 「へぇ〜⋯⋯あっラオシャ⋯⋯これ⋯⋯」 「⋯⋯フフ、閃いたかの」  私の頭の上の電球が光った。  あるアイデアが降りて来た。  そして彼方さんはその様子を見て懐かしさを感じているのか腕を組んで微笑んでいる。 「あ、でもこれに頼るだけじゃダメ。あと一つ、小夏ちゃんが思いつく物を猫の力で作り込んでみてね」 「はい! あの、今日はありがとうございました。えっと、また来ても、良いですか?」 「良いよ〜! アタシも、小夏ちゃんにまた会いたいな⭐︎」  私の肩に手を乗せ、片目でウインクをしてくれた。  イケメンすぎてしんだ。 「ではな。おい小夏正気に戻れ、電車が来るぞ」 「ひぃぃ⋯⋯う、うん、じゃあ、ありがとうございましたー!」  胸の高まりが治らない中改札を抜けて私は彼方さんに別れを告げた。  ラオシャも私の後に続いてこっそりと改札を抜けようとする。 「なあ、ラオシャ⋯⋯だったっけ。そのまま歩きながら聞き流してて良いよ。キミ⋯⋯」  梵彼方がワシに語りかけて来た。忠告通り、振り返る事なく、小夏の元へ歩く。すると、梵彼方は生意気にも一言、ワシの真名を添えて言い残していった。 「魔術は適切にね、──君」      ✳︎   「よし。ではラオシャくん?」 「うむ」  彼方さんのいる隣町に戻ってすぐに、早速自室にて、テーブルの中央に置いたモノクルを水晶玉で占う占い師のように両手をうねうねと動かしながら、ラオシャの力がモノクルに渡らないか色々と試していた。  私の頭に顎を乗せているラオシャも、私の構えに応じて額に当てた肉球をきゅっと力ませて私に力を流している。 「うににににに⋯⋯ぐうううっ⋯⋯」 「これで三度目じゃが、何の成果もないな」  全身に力を込めて震わせながら念じてはいるが、一向にモノクルに力が貯まる気配はない。  背に置いたクッションに勢いよくもたれ掛かって、再度考えを整理する。  彼方さんは当然のように珈琲の中に蓄えておいた力を飲み干し、それを迷魂に対して、基本からは全く乖離した方法でやってのけた。 「念じては、いない⋯⋯? だったらどうしたら⋯⋯あっ」  あの時の彼方さんの表情を思い浮かべた時、一つの考えが浮かんできた。これなら、いけるかもしれない。 「お、行けそうか?」 「⋯⋯ちょっとね。ラオシャ、天眼をお願い」 「うむ」  姿勢を整え、肩を力を抜く。今度は手は構えず膝に置き、自然体でモノクルただ一点を見つめた。ラオシャは再度私の頭を抱き、肉球を思い切り額に押し当て、天眼を唱えた。  夜空の瞳を維持したまま、私はモノクルを見つめ続ける。数秒、間を置き深呼吸をしながら、ゆっくりと瞳を閉じる。  そう⋯⋯彼方さんもラオシャも、なにかをする時には必ず唱えてた。なら、私もなにか唱えれば⋯⋯。    念じるだけでダメなら、言葉を紡いで形に出す。  思考という空間の中で、私は言葉の銃を構える。  解という弾をシリンダーに装填し、フレームを後ろに引き、グリップを握りしめトリガーに指をかけて⋯⋯。    静寂の中、私は放つ。 「()()()()()──()()()()()()()()()()」  言葉の銃はブローバックし、モノクル目掛けて解が飛んでいく。夜空の瞳をゆっくり開く。  結果は──  モノクルは静かに光り始め、フレームの中で薄く青白い(まく)が形成されていた。 「で、出来ちゃった⋯⋯! 出来たよラオシャ! やった!」  両手をあげて大歓喜する。ラオシャも嬉しいのか、終わったにもかかわらずなかなか手を額から離してくれない。 「いやいや確かに上出来じゃが、モノクルをかけてみなければ分からんぞ、どんな感じじゃ?」 「そうだった! よ、よし⋯⋯かけるよ⋯⋯!」  レンズの枠に青白い膜が形成されたモノクルを、私の右目へ装着してみる。  右目を凝らし部屋を見渡した私はハッとなり、その場から立ち上がる。 「ど、どうしたのじゃ、何か見えるのか」 「うん⋯⋯えっと、手鏡⋯⋯」  少し冷静になり、私はメイク道具用のポーチから手鏡を取り出して、自分の顔を覗き込む。  既に天眼の効果は切れ、夜空の瞳はもうない。  モノクルに貼られた膜をよく見てみると、薄らではあるものの流れ星が流れていくのが確認できる。 「天眼の力が、レンズになって移ってる⋯⋯ねえラオシャ! これ!」 「大成功じゃな、流石じゃ、小夏よ!」  この日、私は着実な一歩を進めることが出来た。  私とラオシャは感じた事のない達成感を分かち合い、翌日、逃げられた迷魂の探査を始めるのだった。      ✳︎  翌日、放課後になると即座に家に帰り、私服に着替え、レンズのないモノクルをかけて家を後にし、前回逃げられた迷魂のいる路地裏へ向かっていた。 「という訳で到着! 路地裏にてコンティニューだよラオシャ、リベンジの時!」 「無論じゃが、彼方に言われた事は覚えておるか?」  その返事を待っていたさ。それはもう満面のドヤ顔をラオシャに披露して言った。 「ふ、逃げられた場合の手段でしょ、うふふふ、任せなさい、休憩中考えておいたから」 「ま、ぶっつけ本番しかないからの。では路地裏に入る前に再度、ワシの力を預けておく。お前はモノクルに力を流して、天眼の膜を作っておくのじゃ」  猫巫女基本スタイルを取り、肉球を伝って私に力を流し始める。  私もその力を一定まで蓄え、モノクルへ伝える為に言葉を唱える。 「星を抱く舟(ネイヴィアス・ステラ)」  詠唱の終わりと共にモノクルに青白い膜が形成された。 「これでいちいち天眼を使う必要ナシ! そのまま追いかけられる⋯⋯! 行こう!」 「⋯⋯良い顔をしておるな⋯⋯」  意気揚々と路地裏へ入り、迷魂の方へ向かう。天眼モノクルのお陰で立ち止まる事無く、また天眼による体力消費も大幅に抑える事が出来ている。  あっという間に駆け抜けて、目と鼻の先まで迷魂を捉えられた。  リベンジマッチの時。拳を手のひらで合わせ、気合を入れた。 「さて、追いかけっこの時間かな迷魂くん!」  手の音で気付いたのか、すぐに迷魂は私たちから反対方向へ逃げようとした。 「ラオシャの力はまだ、私の中にストックされてる。そして、もう(にが)す事はない。覚悟してね⋯⋯!」  迷魂の方へ全力で駆けながら、両手を前に構えその手のひらの中で光体を練った。 「先手必勝、いくよっ! 伸びてーっ!」  手首を捻り、光体をこねて棒状に伸ばす。 「回してーっ!」  棒状に伸びた光を輪っかにして、人差し指でくるくると回し続ける。そうしていくうち、輪っかは形を変えて、手錠のように生まれ変わっていく。 「投げるっ!」  掲げた光の手錠を、迷魂目掛けて全力で放つ。  迷魂はなす術なく手錠にかかり、私の元へ手繰り寄せられた。 「ふっふっふ、どうよ! これが私の、ゲーム脳から得た発想! 名付けて浄化の枷(ピュリカフス)!」    天眼モノクルを発明できたその日の夜、ベッドに仰向けになり、腕を顔に当てずっと考えていた。  迷魂を常時見る事が出来たとして、逃げる場合には対策を講じる必要がある。彼方さんは対策として指輪で吸い寄せ、サークルを呼び出して逃げ場を無くした後そのまま送り迎えまで持っていった。  彼方さんのようには行かないまでも何か方法はあるはずだ。私らしく、作り上げられる何かが。  そういえば新しいゲームタイトルの中に、警察を操作して泥棒を捕まえまくるスコアアタックゲーが発表された事を、何故かこのタイミングで思い出した。  まあ、確かに迷魂を捕まえる用途のものを作れたら⋯⋯しかし迷魂は迷子になっているというだけで、捕まえるというような思いはあまり持ちたくはない。  とはいえ"捕まえる"という行為に似通った事をしなくてはならない以上は⋯⋯ならなるべく痛くないものや驚かせないものを選ぼう。そもそも逃げるという行為を相手が選択するのだから、迷魂も捕まえられる覚悟はもって然るべきと、発想して自分を納得させる。  警察、その捕まえる手段は⋯⋯あれなら驚きはすれど、突きつけられては致し方ないと諦める事の方が多いかも⋯⋯それだ、それにしよう。  そんな発想を踏まえて、授業中ひっそりと練っていたのが今回のこの光の手錠という訳だ。発現できるかは分からなかったが、なんとかぶっつけ本番で成功させることができたんだ。 「ワシが寝てる間にそんな事を⋯⋯」  ラオシャには呆れられたが私にはこれが最適解だった。手錠に似通った形状の光の輪っかを作り、投げて迷魂を確保する。これが現状出来る私の応用だ。 「じゃ、迷魂を送り迎えしに、神社にいこう〜!」  確保した迷魂をラオシャの鈴の中へ内包し、神社まで送り迎えを完了させた。  迷魂の記憶を読み取り、私は記憶を分かち合う。    今回だけでどれほどの経験をしただろうか、私はこの日をずっと忘れる事はないだろう。町のオレンジに包まれながら、ラオシャと共に家へと帰った。  明日は休みだ。一杯ゲームしよ。      ✳︎ 「まだ攻めない⋯⋯攻めない⋯⋯避けて⋯⋯違う、その攻撃じゃなくて⋯⋯そ、それ! それ! いやったあああああ!」  モニターに向かって声を上げながら、握り拳を高く挙げて、ゲームクリアしたという高揚感を胸に刻むように、小夏はガッツポーズを決めていた。    迷魂に手錠を決めた時より喜んどるな⋯⋯。 「このゲームをやり始めて四十時間、ようやく⋯⋯ようやく⋯⋯これだから止められへん⋯⋯はああ⋯⋯」  緊張が解かれ、クッションにもたれ掛かった小夏の表情は完全に溶け切っている。それ程までに充実感を感じていたのだろう、この時くらいは何も言わずにいてやるか。今回は小夏の成長に、ワシも脅かされるばかりだった。  利用するだけを目的に近づいた結果、小夏に飼われ、独りで嗜んでいる趣味に付き合わされ、とんだマイペースな奴だと思っていたが、猫巫女にここまで向き合ってくれていたとは、そしてこの素質は目を見張るものがある。  順応力が高いのか、この短期間にワシの魔── 「ああ〜気持ちよく眠れる⋯⋯ぐっすり寝ちゃおう⋯⋯幸せや⋯⋯」  小夏の背伸びと共に漏れ出た野太い声にビックリしてしまい、そこで思考が止まる。まあ良いさ、ワシも、  幸せを感じているし──  
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