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神頼みよりも……
古びた拝殿の前には、常に20人ほどの人影があり、参拝の声が途切れない。
境内は、白亜の玉砂利が美しく敷き詰められ、ベンチや東屋も設置されている。お陰で10代の若者だけでなく、地元の親子連れや若い女性の姿も増えた。
「あ、コレコレ! 狛狸のポンちゃんポコちゃん!」
「やーん、可愛ぃー!」
黄色い声と共に、カシャカシャとスマホのシャッター音が響く。磨かれて白さが際立つ狛狸の像は、若い女性受けがいい。全国各地から参拝者がやって来ては、画像がSNSに溢れている。
「すみませーん、狸守りくださーい」
「はーい」
改築した白木造りの社務所では、白い小袖に緋袴の巫女装束姿の吉良羅ちゃんが、お守りや御札の販売を手伝っている。彼女は、夏休みの帰省中だが、朝から晩まで実家の家業を手伝っている。
「狸守り、まだありますかー」
「はい、水色のポンちゃんと、桃色のポコちゃんがありますよ」
「わ、可愛い! 2つともください」
「ありがとうございます」
2種類のお守りは、ご利益もデザインも同じだ。水色には阿形のスズシロが、桃色には吽形のスズナが、どちらもコロリとまあるい腹を上にして眠った姿で刺繍されている。
白狸神社の神様は、参拝者の願い事を聞いているけれど、狸寝入りしているから、なかなか叶わない。
そんな噂が、今年の春頃からネットに拡散されると、面白がった若者がレアな満願成就を求めて神社を訪れるようになった。
片田舎の寂れたマイナーな神社は、徐々に注目を集める。極めつけは、若者に人気のゲーム「バケ&モンGO!」の「バケストップ」とかいうアイテムやレアキャラがもらえるスポットに登録されたことだ。吉良羅ちゃんの同級生、村上君が境内の写真を添えて申請したのだとか。ゲームメーカーの審査が通った結果、レアな白狸キャラのゲットを目的に、ウチの第二鳥居の辺りが賑わっている。
その村上君は、現在三重の神職系の大学に進学し、将来は吉良羅ちゃんの婿養子になる腹づもりだ。当初は、彼の強引なスタンドプレイに困惑していた彼女も、今では集客効果を認め、満更でもないようだ。
あの日――風花を降らした午後、叶玉が確かに結び付けたのだ。彼と彼女の揺るがぬ縁を。
『神様、お願いします!』
『どうか、叶いますように!』
『神様ー!』
「狸彦様ぁ、どのお願いを叶えますかぁ?」
ケバのない畳の上に寝転ぶ私に並び、フサフサの白毛をすり寄せて、スズナとスズシロが丸くなる。
「そうだねぇ……ウチは、なかなか叶わない神社だからねぇ」
ポカポカ、温まったい草の香りが心地良い。
「ひと眠りしてから、考えようか……」
「はぁい」
全く、人間社会は面白い。何が起こるか、神様にだって分からない。
1つ欠伸をすると、狛狸達の頭を撫でて、私も瞼を閉じた。
【了】
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