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The love is instinct 19
「猛獣使いって、京兄ちゃんのこと? 萌、京兄ちゃん好きーっ」
「萌!? なんか聞き捨てならん事、さらっと言った?」
「え? 京兄ちゃん、せっちゃんの旦那さんだよ?」
「「もえっ!!」」
十玖と淳弥のユニゾンが控室に響き、嫌われたくないと言った傍から、萌は口を滑らせたことに気が付き、見る見る間に青褪めて行く。
身内以外が知り得ぬ情報の漏洩に、全員が愕然とした。
男嫌いで有名なSERIに旦那がいるなんて、誰が想像しただろう。しかもまだ高校に在学中の身だ。
「萌……っ」
「僕知~らない」
「あーん。二人とも萌が言ったって言わないで~ぇ。せっちゃんに嫌われちゃうーっ!」
従妹の名を呟き額に手を当てて項垂れる十玖に、危うきに近寄らずの体で萌には薄情なのを隠しもしない淳弥。
わんわん泣き出した萌を宥める晴日を見ながら、十玖は嘆息して全員を見渡した。
みんな茫然としている。美空も呆けた顔で十玖を見上げていた。
十玖はやれやれと言わんばかりに首を振り、
「せっちゃん曰く、認めていない結婚らしいので、口外しないで頂けると助かります。淳弥も何か言ってよ。弟でしょ」
「え? あ~……うちのママさん……母が、騙し討ちのように結婚させたので、口外しないでやって下さい。お願いします。……ってあの二人、いざとなると息ピッタリなんだけどね」
淳弥は萌のフォローには不満そうだが、瀬里が聞いたら憤慨するのが目に見える余計な一言まで付け足して、姉夫婦のフォローをする。
「瀬里さんと京平さんて、見るといつも京平さんが揶揄って、瀬里さんが一方的にケンカ売ってるイメージだったけど、結婚してたんだね」
摂津子も初耳だったらしい。それだけ重要機密だったという事だ。
爆弾発言してしまった萌に無言の非難が集まった。晴日に縋り付き、居たたまれなさに号泣する萌を、ほとほと困り果てた顔であやしている。
そして余計な説明をしなければならなくなったことに、淳弥はげんなりしていた。
「ケンカはレクリエーション。せっちゃんの鬱憤晴らしに、ワザと怒らせてるだけだから。あんな無謀なこと、京平先輩しか出来ない技だよ。だからこそママさんに見込まれたんだけどね」
「十玖も前にチラッと言ってたけど、SERIってそんなに強いのか?」
武闘派晴日が食いついた。
淳弥はぱちくりと瞬きして、晴日の食いつき処に微妙な顔をした。
「男に特化して強い……かな。兄弟の中で僕と長男以外は、せっちゃんの半殺しの洗礼、受けてますから。まあ兄たちが軒並み弱いくせに構いすぎるのと、三嶋の家訓のせいもあるんですどね」
「ああ。女子は死んでも守るべしってアレね」
晴日の呟きに美空は苦笑いを浮かべ、謙人と竜助が十玖母を思い出してクスクス笑う。
「アレです。まあ気になるなら、機会があった時にでも手合わせしてみるといいですよ」
「イレギュラー技の連発だから、楽しいは楽しいですよ」
淳弥の尻馬に乗ってのほほんと十玖が言った。ただし、楽しいの意味合いが人とは少々……いや。大分違うが。
「なあ淳弥。おまえ母親のことママさんって呼んでるの?」
「唐突だね。悠馬」
「うちもマムとダッドだぞ」
「あー。ハルさん兄妹はそっか」
見てくれは白人そのものの晴日と、混血だと分かる風貌の美空。
何故だか日本人という奴は、ある時期が来ると、パパママと呼ぶのが恥ずかしくなる人種だ。淳弥の周囲でも背伸びして、急に呼び方を変えて行く中で、変わらずそう呼ぶことを幾度となく揶揄われた。
淳弥は心中で「またか」と呟き、口元に笑みを浮かべる。
「四年生の時、『お母さん』って呼んだら、『そんなの淳ちゃんじゃないわ』って大泣きしてクローゼットに籠城した事あって、禁句令が出たんだよ。うちの両親、頭いい筈なのに変な方向におかしいから。兄たちは好きなように呼んでるのにね」
微苦笑を浮かべて肩を竦める。
「何か色々大変な? 家族だな」
「……うん」
悠馬の慰めというには微妙な言葉に、淳弥は頷いた。
「そんな感じしなかったのに」
将棋倒しで入院した時のことを思い出し、美空は若干疑いの眼差しを淳弥に向けた。それは晴日と竜助も同じだ。
「医者としては優秀だと思うけど、親として優秀とは限らないでしょ? お嬢様育ちで感性がちょっと人とズレてるママさんだけど、パパさんは未だにベタ惚れだし、プライベートの時間はママさんに翻弄されまくってなかなか愉快なことになる」
それを生まれてからこの方ずっと見てきたわけだ。
「さすが三嶋の血……?」
十玖と淳弥を見、美空は感心半分、呆れ半分の笑みを浮かべた。
「三嶋の男に惚れられたら最後だからね」
「そうそ。絶対に逃がさないし、そのための努力は厭わないから」
十玖が言って淳弥が同意する。
三嶋男児が互いのパートナーをぎゅっと抱きしめ、満面の笑顔を浮かべるのを眺めながら、A・Dもedgeとそのマネージャも、やってられないと喉元まで出かかってるのを飲み込み、佐々木はぐったりとし、筒井はそんな彼の肩を優しく叩いた。
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