A・Dの夏休み 1

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A・Dの夏休み 1

   夏休み、ライヴと練習に明け暮れるA・Dに、ようやく三日間の休みが貰えた。  各々がやっとデートできることになり、浮足立っている。  四六時中つるんで仲の良い彼らも、今回ばかりは溜まりに溜まった欲求不満を解消すべく、集団行動を取ろうとする声は上がらなかった。  ただし、連泊をするためのアリバイ工作は、互いが協力的である。  朝も早くから合宿と称して、それぞれが家を出て目的地に向かう頃。  早朝の駅で美空を待っていると、晴日と一緒に美空が現れ、少し遅れて萌が到着した。  合宿と言っている手前、晴日と美空がバラバラの時間に出るわけにいかなかったので、そこはちゃんと示し合わせて抜かりはない。因みに十玖と美空は、彼女の希望で隣県の海沿いのホテルを予約している。二泊三日を存分に楽しむつもりだ。  十玖は美空の荷物を持って、その重さに「なに入ってるの?」と思わず聞いてしまった。晴日も同様、萌の荷物の重さに驚いていた。  旅慣れた二人には、信じられない重さである。 「女の子には色々とあるの! ねえ萌ちゃん」 「そうだよ。分かってないなあ」  男二人は顔を見合わせて、肩を竦めた。  四人は券売機に向かい、十玖が何気に訊いた。 「竜さんは、三日間どうするって言ってました?」 「麻美んトコにしけ込んどくって言ってたなあ。うちの親と鉢合わせたら不味いだろ」  ああと呟き、十玖は小さく頷いた。  “麻美”は一般的に言うところの彼女だと十玖は思うのだが、竜助に訊くと『どうだろ?』と小首を傾げた曖昧な返事が返ってくるのだ。最近では麻美がライヴに来ることはめっきり減ったと聞くし、彼女とは数度会釈をし合っただけで、十玖はほぼ接点がない。十玖以上に人見知り……なのかも知れないと思っているのだが。 「……ですよね」  麻美のことを思い出しながら同意の言葉を告げ、今度はもう一人のメンバー謙人を思い出す。  謙人と佐保は、渡来家所有の別荘に行くと聞いている。こちらは婚約者同士だから二泊三日のお泊りも問題ないのだが、他三人のために口裏を合わせてくれるそうだ。有り難いことである。  四人は改札を通り、同じホームに立って、これから始まる三日間に思いを馳せて笑みを浮かべ……ていたのだが。  十玖はチラリと右隣を歩く晴日に目を遣った。  JRに乗るなら、一緒もあってまあ不思議じゃない。しかし、私鉄線を下車しJR駅の構内をずっと同じ方向に進んでいる。  だんだん四人の笑顔が引き攣ってきて、我慢の限界が来た晴日が口を開いた。 「おまえら、どこ行くんだ?」 「晴さんこそ、どこですか?」  言いながら、やはり同じ券売機の前で足を止めた。  何本もの鉄道が乗り入れているのに、何故、同じ鉄道の券売機の前に立っているのか。  四人の笑顔が完全に消えた。 「ホテルどこだ?」 「晴さんは?」 「…同時に言うか?」 「そうですね」  切符を買って、券売機から離れた所に移動し、二人は「せーの」でホテルの名前を言った。 「「マリンビュー」」  異口同音だった。  二人は押し黙って、互いの顔を見入っている。  たまに別行動をしようとしてみれば、期せずして同じホテルを予約していた。これは本当に偶然なのか。それとも必然なのか? 「こ……こんな事も、あるんだね。きっと楽しいよ。うん」  美空の目が泳いでる。萌はあらまと言いたげな顔。  二人きりの楽しい旅行になるはずだったのに、何の悪戯か。  しかし女子二人はすぐさま気を取り直して、けらけら笑いながら改札に歩いて行く。こう言う時女の方が開き直りが早い。男二人は唖然と彼女らを眺めやって、計画が頓挫しないように協定を結ぶ外ない。 「十玖」 「なんでしょ」 「夜はお互い関わらないで行動しような」 「当然です」  男子の由々しき事情を抱える二人は握手で不介入を約束し、暢気な女子二人を溜息交じりに眺めるのだった。
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