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「わかりません。どこにも異常がないので、正直わたしもどうしていいのかわからないのです。まるで…」
「まるで、なんだ?」
トミテが途中で止めたその先が気になり、王子が聞いた。
「まるで、セリーナは自分で目を覚ますのを拒んでいるような気がします」
「なに?セリーナは自ら眠っていると言うのか?なぜだ?」
「強いショックにより、現実から逃げたのかもしれません」
トミテの言葉に、王子は頭を殴られたような感覚を受けた。
……己のせいか?
自分があんな姿をセリーナに見せたから、セリーナはショックで目覚めることを拒否しているのか?
「セリーナ…」
王子はフラフラとセリーナのベッドの傍らに崩れるように座り込み、セリーナの顔を見て「すまない」と力なく言った。
「セリーナ、目を覚まして真実を聞いてくれ。僕は決して君を裏切ってなどいない。けれど、あのような状況になったことは僕の失態だ。目を覚まして僕を叱ってくれ。セリーナ、お願いだ。目を覚ましてくれ」
王子はセリーナの点滴をしていない方の手を握り、涙を流して言った。
その姿は王子ではなく、愛する女の前で愛を語るただの男だった。
トミテとニールはその痛々しい姿を見ていられなくて、そっと部屋を出た。
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