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春の風
王城内の花が次々と咲き、裸になっていた木々たちも緑色の新芽で装い始め、風が暖かく空気も柔らかくなっていた。
気持ちの良い気候に、王子は執務の休憩の合間を縫ってセリーナを抱いて王宮の屋上の庭園に出た。
王子とセリーナのために置かれるようになった大きなベンチに腰掛けて、王子は今日もセリーナに話しかける。
「セリーナ、今日はいい天気だし、気候も気持ちいいね。風が柔らかいよ。これをそよ風って言うのかな?」
王子はセリーナの顔にかかった髪を耳にかけながら言った。
「空の色も青く澄んでいて、こんなに花も咲いているよ。君が見たら『綺麗だ』ときっと喜んでくれるだろうね。君の笑顔が見たいよ。……お願いだよ。目を覚まして、僕を見てくれよ。セリーナ」
王子はセリーナを抱き締める。
太陽は温かな日差しを降り注いでいて、風は柔らかく吹いている。それはまるで二人を包んでいるようだった。
しかし突然、地面が揺れたようにも感じる激しい風が吹いた。
王子とセリーナを引き裂こうとするような強い力から守るように、王子はセリーナをしっかりと抱きしめた。
竜巻のような風は地面が揺れたのかと思うほど強かったのに、まるで錯覚だったのかと思うほどあっと言う間に過ぎ去った。
あまりの風の強さに閉じていた目を開けると、目の前にマリンブルーの瞳があった。
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