大正浪漫ロマン

2/89
95人が本棚に入れています
本棚に追加
/89ページ
人と人の出逢いというのは本当に奇妙で、偶然かと思いきや決してそうではなく、出逢うべくして出逢ったんだと初めて先生のお顔を拝見した時に思いました。 「新しい方ですか?」 先生は、畳に正座したわたくしを見下ろして言いました。 「はい。華藤菊子と申します。よろしくお願い致します」 顔を上げずに申しますと 「顔を上げなさい」 と先生は仰られました。 恐る恐る顔を上げると、先生はしゃがんでわたくしの目の前に座り、そっと指先でわたくしの髪に触れました。 一瞬、どうして良いのかわからず、目を閉じてしまい、何も起こらない事を不思議に思ったわたくしが再び目を開けると 「形も色も美しい。押し花にするといい」 と言って、わたくしの髪に引っ付いていた一弁の桜の花弁を取って渡して下さいました。 手のひらで揺らめく花弁は今にも飛んでしまいそうで、困っておりましたら 「これに挟むといい。本は君に差し上げます。名刺代わりだ」 と先生はご自身の本棚から一冊、小さな本をわたくしに下さいました。 浮流の月 大和翠明 と書かれてありました。 「ありがとうございます」 そう言ってわたくしは、本にそっと桜の花弁を挟んだのでした。
/89ページ

最初のコメントを投稿しよう!