大正浪漫ロマン

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雪見戸が廊下に沿って並んでおり、部屋の中からも庭が一望できる造りになっております。 絣の着物に白の割烹着姿で、しゃなりしゃなりと前を歩かれている女性は千代子さんといって、お屋敷全体を取りまとめていらっしゃる方らしい。 「翠明先生は気難しい方だから、くれぐれも粗相の無いように」 と振り向かずに言った。 「はい。わかりました」 「こちらが貴女のお部屋。布団は各自で時間を見つけて干すこと。洗濯は先生のものから順に。自分のものは最後に」 「はい」 「荷物を置いたらお台所へ来て」 と言い残し、千代子さんはまた しゃなりしゃなりと長い廊下を歩いていった。 「わたくしの、お部屋」 そこは少々日当たりも悪く、カビ臭さが鼻につく狭い部屋だったが、障子を開けた途端、別世界と繋がっているかのような光景が目に飛び込んできたのです。 「すごい・・・・」 一面の桜、桜、桜・・・・。 薄桃色の雪のように、わたくしの目の前に降り注ぐ桜吹雪。 「なんて、すごい、光景」 思わず手を伸ばし、舞い降りる桜の一弁を掴もうとしても、花弁は指の間をするりと抜けて落ちていくのでした。
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