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彼女は不審げに受け取ってみると、一番上にお荷物取り出し券とあり、QRコードの下に領収書とあり、利用場所JR〇駅北口ロッカールームとあり、扉番号欄の下にご利用代金500円とあった。
呆れたわ。このお爺さん、コインロッカーをATMだと勘違いしてる。完全にボケてると良美がバカにしていると、「やるよ」と爺さんは言った。「ゴミじゃから」
頭だけでなく目も悪いのかしらと思って吹き出しそうになった良美は、コインロッカーを確かめようと爺さんに別れも告げずにその場をしめしめと去った。
良美は正直な所、棚から牡丹餅、濡れ手で粟、むちゃくちゃ儲けたと思って半端ではなくワクワクしながらペデストリアンデッキを渡って行き、JR〇駅の北口に入った。ロッカールームの場所は知っている。右に折れて直ぐだ。そこへ辿り着き、扉番号を確かめ、QRコードを読み取り機にかざすと、ロッカーが開錠された。
良美は一通りでなく歓喜して興奮で胸を波立たせながら扉を開けた。すると、有るものとばかり思っていた彼女は、きゃー!と心の中で歓声を上げかけたが、あれ!何にもない!と口をあんぐりとさせた。でも、よく見ると、5円玉がぽつんと置いてある。と言うことはあのじじい、ボケたふりして私を担いだのかしらと訝った途端、くそ―と苛立って、ちぇっと唾を吐き捨てるように舌打ちした。
500万円ならぬ5円かよとロッカーの中を虚しそうに見つめている内、コインロッカーをATMだと勘違いするくらいだからひょっとして500万円を5円だと、そうも勘違いしてるのか、やっぱりボケてんのかと訳が分からなくなっていると、「おい」と不意に背後から声を掛けられた。
良美はぎょっとして振り向くと、かの爺さんが例の親しみの湧くにこにこした恵比寿顔で立っていた。「やっぱりお前さんは綺麗事を言っとったんじゃな」
「はっ?」
「わしがボケ老人であるのを良いことにロッカーに500万あると信じて盗もうとしたんじゃろ」
「い、いや・・・」と良美が言葉に詰まると、「これは荷物として態と置いておいたんじゃ」と爺さんは言いながらロッカーの中の5円玉を摘み取り、彼女に差し出しながらしたり顔で言った。
「これも何かのご縁じゃ。やろうか」
良美が鼻白んで後ずさりすると、「ひっひ、生憎、わしはボケ爺では毛頭なく人間性を確かめることを何よりの楽しみにしておる只の暇な爺じゃ。ハッハッハ!」と爺さんは笑い飛ばして然も愉快そうに立ち去って行った。
良美は善良な一般市民と自覚しているだけに化けの皮を剥がされたような気がして自己嫌悪に陥り、この時程、恥じ入ったことはなかった。
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