謎の好々爺

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 快晴でぽかぽかと温かい日曜日の昼間、良美は陽気に誘われて散歩していた。彼女は極普通の妙齢の女性だ。嫁入り前で天高く馬肥える秋だわなぞと思って何処か浮かれている。ちょっとお買物でもしようかなとJR〇駅北口とM百貨店とを繋ぐペデストリアンデッキの階段を上がって行くと、ベンチに座ってにこにこしている好々爺然とした爺さんを見つけた。その親しみの湧く笑顔を微笑ましく思った良美は、心がオープンになっていたこともあり幸せを享受しようと傍へ寄って声をかけた。「お幸せそうですね」  すると、「そう見えるか」と爺さんがぶっきら棒に答えたので良美は肩透かしを食らった格好になりながらも、ええと答えた。 「そう見えるだけじゃ。うまい話には裏があるように大人の笑顔にも裏がある。わしの笑顔にも裏がある。何だか分かるか?」 「えっ」 「あんたを誘惑しようとする下心じゃよ」 「えー、アッハッハ!」と良美はアホらしくなって大笑いした。 「勿論、冗談じゃ」と爺さんが言うと、良美は笑いを堪え切れずに言った。 「御冗談だと思いました」 「そんなに面白いかい」 「え、ええ」 「わしはあんたの何倍も愉快じゃぞ」 「えっ、何でですか?」 「なんせ、さっきよお、札束拾ったもんでな」 「えっ、ほ、ほんとですか?」と良美は真顔で驚く。 「500万あった」 「えー!」と良美は吃驚した。「ま、マジですか!」 「ああ、道端に落ちてたんじゃ。えらい落とし物をする虚け者がおるものじゃ」 「あの、それで500万円はどうしたんですか?」と良美は興味津々になって訊く。 「貯金したよ」 「えっ、警察に届けないと」と良美は善良な模範的市民として忠告する。 「何を言っとるのかね。警察じゃ貯金できんよ」 「いや、だから」あんたこそ何言ってんの!と良美は不服に思い、「人の落とし物は」と言いかけると、爺さんがいやに威圧のあるドスの利いた声で言った。 「綺麗事言うな」 「はぁ?」 「お前さんだって500万円を独りで見つけたらネコババするじゃろ!」 「い、いや・・・」と良美が答えあぐねていると、爺さんは不満げにぶつぶつと、「しかし、何だなあ、最近は預金するだけでも手数料を取るんじゃな」 「えっ、そんな筈はないと思いますけど」 「あんた、疑っとるんかね」 「え、ええ」 「じゃあ、証拠を見せてやる」と爺さんは言うと、紙切れをポケットから取り出し、「ほれ、利用明細書じゃ」と良美に差し出した。
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