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二人は隣の空き教室へ移動した。 着いて早々彼は教室の時と同じように外を眺め始める。
―――設定って大事だよな。
―――悪いものを排除して、この国の平和を守りたいって大変だし。
ただ今の史暗からしてみれば、その設定は忘れてほしかった。 もっとも無理強いすることもできず、そのまま話すことを促されたため放っておくことにした。
「で? 話って何だ」
「あぁ・・・。 その、実は俺さ。 今日をもって中二病を卒業することにしたんだ」
そう言うと下から見上げるようチラリと視線を向けてくる。
「・・・お前、それは正気か?」
「あぁ。 もう決めたことなんだ」
「とりあえず、その標準語を止めてくれないか?」
「どうしてだよ。 中二病を止める時用に、練習をさせてくれよ」
「ならもうお前とは口を利かない」
「・・・分かったよ。 じゃあ今だけ中二病語な」
自分の中で設定というものがある。 史暗は吸血鬼の王、ヴァンパイアロードを体内に封印しているという設定だ。
「それで、止める理由でもあるのか?」
「聖女の贄を我が肉体が欲しておるのだ。 や、止めろ、出てくんじゃねぇ・・・ッ!」
そう言うと溜め息をつかれる。
「夜の王が疼くのか? たった一人の女のために全てを捨て去ると?」
「あぁ。 そうしないと鎮まらねぇ」
「意味不明至極。 貴様が犠牲にせんとするものは決して安くはない。 その肉体の一体何が悪いというんだ?」
「俺を否定しているわけではない。 寧ろ今でも封印した俺は好きだ」
「そう思うなら止めなくてもいいじゃないか。 というより、止める必要がない」
「彼女と添い遂げるには止めるしかないんだ」
史暗に好きな人がいて、そのためには中二病設定が邪魔とそれだけの話である。 お互い何となく分かり合っているのはやはりそういう思考からなのだろう。
「俺には分からない。 中二病こそが、本当のお前だろ。 自分の色を失ってどうするんだ?」
「言いたいことは分かる。 でも俺には」
「もういい。 これ以上話しても時間を無駄にするだけだ」
そう言って彼は去ってしまった。
「・・・それでも俺には、守りたいものがあるんだよ」
―――だから中二病を止めるという気持ちに偽りはない。
―――俺としては中二病を止めても友達でいたいんだけどな。
史暗も教室へ戻ったのだが、やけに賑やかだった。
―――何があったんだ?
疑問を抱いていると女子が何かを持って寄ってくる。
「あ、史暗くん! これは史暗くんの分ね!」
手渡されたもので卒業アルバムで、時間をかけて制作していたものがようやく完成したようだ。
「卒業アルバムか。 どれどれ・・・」
開いてみると最初のページから中二病を全開に出している史暗の姿が写っている。 まるでコスプレをしたアニメのワンシーンの用だった。
「おぉ、俺決まっているな・・・!」
中二病の恰好は目立つためペラペラと捲るだけでも目に付いた。 そんな中ある一枚を発見する。 他の生徒をメインに写し、その後ろで史暗は間抜け面で突っ立っていたのだ。
「何じゃこりゃあ!?」
―――いつの間にこんなものを撮ったんだ!?
―――全然カッコ良くない、寧ろ笑われ者になる!
―――これは盗撮だ!
―――今すぐ先生のもとへ行って新しい写真に変えてもら・・・。
「史暗ー! 何だよこの写り、面白ぇー」
今見ていた間抜け面を男子は指を差す。
「うるさい、見るな!」
「いいじゃん、面白くて。 記憶に残るし」
「記憶・・・。 でもこんなもので憶えられても嬉しくはない・・・」
するとまた別の男子がからかうように言った。
「おい史暗ー! この夢って本当かー?」
「夢?」
指差されたページを見る。 個人が書いたページだ。 史暗は紙を全て塗り潰し、消しゴムで消しながら文字を描いたのだ。 黒が映えなかなかの芸術作品に仕上がっている。
それだけでも惚れ惚れとするが、書かれている夢の“この世の悪を全て排除する”というのも気に入っていた。
「あぁ、そうだよ」
「マジで!? かっけぇ! これでこの国の未来も安心だな」
史暗は中二病であったという歴史に恥じらいはない。 寧ろ誇らしいと思っている。 ただ告白をするのに邪魔になるため仕方なくということなのだ。
教室を見渡してみるが、その相手の綾音はまだ来ていなかった。
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