○○○からの卒業

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姿が見えないというのに、この後告白するというだけで異様な程にドキドキしている。 今突然綾音が目の前に現れたら心臓が破裂してしまうのかもしれない。 ―――・・・こんなの、俺らしくない。 持っている卒業アルバムに再度視線を移す。 ―――思い出、か・・・。 ―――まぁいいか、それでも。 ―――笑われるのは不服だが、これも残しておいてほしいって言ってくれる人が一人でもいるなら。 ―――さて、次は・・・。 教室の後ろで仁王立ちをし高笑いをしている彼に目を向ける。 彼も中二病だ。 見た目はシンプルで、学ランをただ羽織っているだけなのだが―――― 「僕の名は堕天使。 下界・・・。 いや、魔界からやってきたんだ! その理由はこの世界の平和を守るため」 発言が史暗よりも酷かった。 更に設定が固まっていないのか時々言っていることが変わることがある。 それに合わせるのも中々大変だが、今までは彼が言う通りに話を合わせてきた。 「・・・え、魔界からやってきたのにどうして悪さもせず皆を助けるのかって? 君の言う通り、魔界は悪い奴ばかりいる。 そこで僕は考えた。   魔界の中でヒーローになれば、僕は偉大な英雄になれるってな! ハッハッハッ!」 堂々と教室の後ろを使っているせいかか、彼の前には数人の観客がいた。 何かのショーだとでも思っているのかもしれない。 「む? 皆、申し訳ないな。 水精霊の流し場に至急いかないといけなくなった」 そう言って彼は廊下へ出た。 それはトイレへ行くということのため、慌ててその背中を追いかける。 「なぁ!」 余程我慢していたのか、振り向きはするが足の速度は一切緩めようとはしない。 「おぉ! これはこれは心の友よ」 「ちょっと話があるんだけど」 「何だい? この僕に相談かい? いいだろう、話してみたまえ」 「実は俺、中二病を止めようと思っているんだ」 そう言うと彼は立ち止まり史暗の肩を掴んできた。 「どうした!? 思考操作でもされたのか!? 僕が敵をせん滅する!」 「あぁ、いや、誰にも何もされていない。 これは自分の意志だ」 「・・・自分の?」 「そう。 好きな子ができたんだ。 その彼女のために止める」 そう言うと彼は手を下ろす。 「んー、なるほどな。 愛、か・・・。 確かに愛に勝るものはいない。 それは認めよう」 「よかった」 「君の意志は否定しない。 でも寂しくなるな、同志がいなくなるのは・・・」 史暗を目指し中二病を目指す生徒も確かにいる。 だが馬鹿にしてくる人もいるのだ。 「俺は今でも中二病は好きだ。 中二病を広めれば同志は増え続ける」 「そうは言っても難しいんだぞ・・・。 そう言えば、君が好きな彼女は君が中二病だということを知らないのか?」 「いや、知ってるよ。 俺が中二病だと理解している上で仲よくしてくれる」 そう言うと難しそうな表情を浮かべた。 「中二病である君と仲よくしているのか? それなら止める必要あるか? 別に止めなくてもいいだろう」 「いや、それはそうなんだけど・・・」 「まぁ、自分で決めたならいいさ。 僕は中二病である君だからこそ、彼女は仲よくしてくれていると思うけどね。 それだけは伝えておくよ」 「・・・」 やはり彼は心のどこかで“中二病を止めないでほしい”という気持ちがあるのだろう。 「おっとごめん、そろそろ僕は限界だからお手洗い・・・。 もとい水精霊の流し場へ行かせてもらうよ」 「あぁ、ごめん。 話を聞いてくれてありがとう」 彼はそれに微笑むと、股を微妙に閉じながら走るという変な走り方をしながら去っていった。 史暗だけがポツンと取り残される。 ―――そう言われると、な・・・。 ―――折角決心した心が、また揺らいでしまうではないか・・・。 彼に言われた言葉が、妙に心の奥底に引っかかっていた。
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