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しばらくその場で考えていると背後から声がかかった。
「あれ? 史暗じゃん」
「ッ、綾音さん・・・!?」
―――朝からラッキー!
―――声をかけられたよ!
別に特別なことでも何でもないのだが、今迷っている最中の史暗にはちょっとした幸運な出来事だ。
「どうしたの? こんな廊下のど真ん中に突っ立って」
「あ、あぁ、ちょっとトイレへ行こうかと迷ってて」
「我慢せずに行ってきたらいいじゃん」
「いや、いいんだ。 綾音さんを見たら行きたくなくなった」
「何それ? 変なの」
そう言っておかしそうに笑う。
―――笑った、可愛い・・・!
―――俺、思わずニヤけるなよ・・・。
「それよりおはよう、綾音さん。 今日も元気?」
「おはよ。 当たり前じゃん! 逆に聞くけど、私が元気じゃない時なんてある?」
「そう聞かれるとないかも。 でも寂しくなるな、今日卒業式だなんて」
「確かに私と史暗は高校が真逆の方向にあるもんね。 ところでさ、さっきからその話し方は何?」
「え?」
「何かの罰ゲームとか?」
綾音の前では特に中二病ぶった話し方をすることが多かった。 それを指摘していることは史暗にもすぐ分かる。
「あぁ、これは自分の意志だよ。 口調を普通に戻してみたんだ」
「ふーん。 違和感はあるけど、普通に話すのも新鮮で面白いね」
「本当!? 悪くない?」
「うん。 いつものように中二病発言をする史暗も面白くて好きだけど」
「す、好き・・・!?」
「じゃあ私、先に教室へ入ってるね」
そう言って去っていった。 それを見送りながら、史暗は心を弾ませる。
―――す、好き・・・。
―――やっぱり脈ありだ!
―――・・・だけど、どっちの俺もいいとか言われると余計に困るな・・・。
―――成功するのはどっちだ?
考えながら教室へ戻る。
―――最後はアイツに相談してみるか。
中二病四天王の最後の一人。 リングやピアスといったアクセサリを大量に身に付けている彼のもとへ向かう。 彼は一人席に着き、スクールバッグの中を見てニヤニヤしていた。
史暗も覗き込んでみると、たくさんのアクセサリがバッグの中でひしめいている。 雑な扱いな気もするが、彼がそれでいいと思っているのならそれでいいのだろう。
―――うわ、流石に俺でもここまではしないぞ。
教科書を入れる隙間さえない。 彼は家でどうやって勉強をしているのだろうか。
「何だよさっきから。 人のバッグの中身をジロジロと見て」
「あ、いや・・・。 そんなにどうしたの? 学校でアクセサリの店でも開くつもり?」
「んなわけねぇだろ! このアクセたちは全てに命が宿っているんだ。 いつ暴走するのか分かんねぇから、見張っておく必要があるんだよ」
「へ、へぇ・・・」
「んで? 俺に何か用?」
「あぁ、相談があるんだ。 実は好きな女子のために中二病を止めようと思っているんだけど」
「・・・それ、本気か?」
「もちろん。 ・・・でも今、悩んでいて。 彼女は中二病の俺も、普通の俺も受け入れてくれるんだ。
でも中二病は女子にとって付き合いたくない対象にされているみたいだし、止めようと思っていたんだけど・・・。 中二病の俺もいい、みたいなことを彼女は言うから・・・」
「その彼女は中二病であるお前のことが嫌いではないんだろ?」
「多分・・・」
「謎だ。 彼女は中二病のお前だから話しかけてくれるんだろ? 普通の男だったら興味も持ってくれないはずだ」
「確かに・・・」
「女子にとっては付き合いたくない対象とか言っていたけど、彼女が中二病にNGを出すのかはまだ分からない。 だったら彼女の気持ちを優先して考えたらどうだ?」
そう言うとバッグを持ってここから去っていった。
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