恋の魔法 北和行の場合

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恋の魔法 北和行の場合

俺が喫茶店『Cafe月の雫』でコーヒーを飲んでいると、いつも二人で現れる高校生の片方だけが現れた。 名前は横山―――宗、だったか。 マスター、町田さんの「今日は翼くんは一緒じゃないんですね」という言葉に反応したようにみえた。呼吸が乱れ、あっと思った時には身体が傾いていった。 町田さんがしっかりと抱きとめて俺の方を見た。 俺は「大丈夫」と頷いてみせた。 俺は常連だし、昔この店でバイトしたこともあったのでお客さんが来ても対応できる。 勝手知ったるなんとやら、で予備のエプロンを付けキッチンに入る。 自分がバイトしていた頃と何も変わりがないレイアウトに思わず口元が綻ぶ。 俺は丁寧に心を込めてコーヒーを淹れる。きっとすぐに必要になるはず。 ちょうど淹れ終わった頃町田さんは現れて「ありがとう」と言ってコーヒーを持って行った。あの子に魔法を使うのだろう。 俺は何度も町田さんの魔法を見てきた。 だけど、俺には使ってくれない。 魔法を使ってくれたら……俺は――――。 そうして横山宗は笑顔で店から飛び出していった。 「かわいいっすね。俺にもあんなピュアな頃があったんだよなー」 「北くんがピュア?」 「なんか町田さんって俺にだけ当たりが強い気がするんですけどー」 「そんな事ないよー?」 にっこりと微笑む。 「あーあ、俺も恋人ほし―――」 町田さんが戻ってきたので俺はエプロンを外しいつもの定位置に戻る。 「北くん好きな人いるの?」 「――――いますよ?」 「へぇ……?」 「気になります?俺猛アピールしてると思うんすけどぜーんぜん相手にされてないっていうかー」 「北くんの好きな人ってよっぽどにぶいのかな?北くんのアピールってすごそうだもん」 「本当、それ。すっごいにぶちんです」 俺はじっと町田さんを見つめる。 「ん?僕の顔に何かついてる?」 「はい。目と鼻と口が」 真剣な顔で言ってやると町田さんはぷっと噴き出した。 本当笑いの沸点低いなこの人。そういうところも……なんだけどな。
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