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敬が帰って行ってカップやティーポットを片づけて、新しいコーヒーを持って町田さんが俺のところへ来た。
「お待たせしたね。魔法をかけよう」
「本当ですか??―――お、お願い、します」
やっと……やっとだ。
告白するチャンスをもらえただけでも嬉しい。
町田さんの指からキラキラと光る線が走る。
そして……ぽとり、ぽとり。
魔法とは別の光が床に落ちる。
「え―――?」
光の線もしゃりっという音を立てテーブルの上に落ちて砕けた。
「なんで……泣いて―――?」
「ごめん……、ごめんね。できない…」
「町田さん?」
「キミの応援、できないよ……ひっく」
まるで子どものように泣きじゃくる町田さん。
そんな姿を見るのは初めてで、どうしていいのか分からない。
それでも自分の好きな人が目の前で泣いている。
抱きしめずにはいられなかった。
俺の腕の中でぽろぽろと零れる雫たち。
泣いてる姿さえこの人はこんなに綺麗で、胸が締め付けられる。
どうして泣いているんですか?
町田さんは、しばらく泣き続け落ち着いてきたのか両手で涙を拭った。
「どう、して―――自分に魔法、かけられない、んだろうね…」
「魔法、かけたかったんですか?」
「うん…。僕…好きな人が――っ」
気が付くと俺は町田さんの唇を無理やり奪っていた。
諦めなくてはいけない。だけど、町田さんの口から『好きな人』の事なんか聞きたくない。
「ん―――っ、ん―――っ」
どんどんと両手で俺の胸を叩いて抵抗する。
いやだ。拒まないで。俺を受け入れて!
俺は町田さんの口の中に舌をねじ込みキスを深くしていった。
胸を叩いていた町田さんの両手から力が抜けていくのが分かった。
「はぁはぁ」
唇を離した時にはお互いに息も絶え絶えで、荒い呼吸の音だけが店に響いた。
「―――町田さん、好きです。もうずっとずっと好きなんです」
「え?」
きょとんという顔をして何度も瞬く。
「えって……。気づいてたから魔法使ってくれなかったんじゃないんすか?」
「北くん、僕の事、好き、なの?」
まだ信じられないという顔をする町田さん。
いや、まさかちーっとも伝わってなかったとは。
本当冗談抜きですっごいにぶかったんだな……。
「はい。そう言ってます」
町田さんの頬がみるみる赤く染まっていく。
あれ?俺の気持ちに気づいてなかったんなら何で魔法使ってくれなかったんだ?
「ところで、じゃあ何で魔法使ってくれなかったんすか?10年も――」
「それ、は―――」
視線を彷徨わせごまかそうとしているのか。
「町田さん、答えて?」
観念したのか俺の事を少し涙目で睨み、叫ぶ。
「う´―――。僕が、キミを、好き、だったから!」
「へ?」
今度は俺がお間抜けな表情になる。
「キミに魔法かけたら、好きな人に告白するでしょう?そんなの嫌だから、だからできなかった……」
「ふふ」
「何笑ってるんだよー」
「だって俺の好きな人はあなたなのに。あなたは『恋の魔法使い』なんて言われてるのに自分の恋は邪魔してたってわけですね。くすくす」
「笑うなよぅ―――。だってキミは恰好いいし、僕の事なんか好きだなんて思わないじゃないかっ」
「俺、恰好いい?」
「あ………」
「言って?町田さん、俺恰好いい?」
「か、恰好、いい。すっごいすっごい恰好いい!いつもドキドキしてる!」
「あは」
俺は思わず町田さんを抱き上げ、笑いながらくるくると回った。
「うわっ北!やめろ!」
「これが俺たちだけの恋の魔法です!」
そして、見つめ合いそっと口づけをした。
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