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「いらっしゃい。おや、宗くんどうかしましたか?今日は翼くんは一緒じゃないんですね」
学校の帰り道にある喫茶店で、翼と二人でよく行く喫茶店『Cafe月の雫』のマスターだった。
名前はルーク町田さん、イギリス人と日本人のハーフだそうだ。
瞳が翡翠色をしていて光の加減で色が違って見えて神秘的で、とても綺麗な人だ。
落ち込んでいたオレは無意識にここへ来てしまったようだ。
今日は一人。
これからもずっと一人かも……。
ずきずきと心が痛みだしうまく息ができない。
「ふっ…はっ………っ!」
傾いていく身体を抱きとめられる。
――――つばさ……?
違う。この腕は違う!
抱きとめられたのが翼ではないと気づき、逃れようと身を捩った。
「宗くん、落ち着いてっ大丈夫だからっ」
「――――あ」
マスターだと気づきふっと力が抜けた。
「奥で少し休もうか」
マスターにそのまま抱き上げられ奥へ連れていかれた。
奥は居住空間になっているようだ。
奥へ入ると大きなソファーに降ろされた。
「ゆっくり息をして、大丈夫、大丈夫」
そう言いながらオレが落ち着くまでマスターが背中を優しくさすってくれた。
「―――すみません。ありがとうございました」
「大丈夫?落ち着いた?」
「はい……。もう大丈夫、です」
「宗くん、僕の秘密教えてあげようか?」
「ひみ、つ?」
「そう。僕はね、魔法使いなんだ」
マスターはそう言うといたずらっぽくふふっと笑った。
「魔法――使い…?」
「内緒だよ?」
そっと人差し指を唇の前に立ててみせた。
「オレ―――」
ぽつぽつと話し出した。
ここ数日の事。俺の気持ち。
「そっか。ちょっと待ってて」
しばらくして戻ってきたマスターの手にはお盆があり、その上にはコーヒーカップが乗せられていた。
ことりとオレの前に置かれるコーヒーカップ。
目線だけでマスターの動きを追う。
「ここからが僕の魔法。………」
何か口の中で唱え始め指先から出たキラキラ輝く光りが沢山の線を描きコーヒーカップの中に消えていく。
ゆっくりとティースプーンでかき混ぜられ、コーヒーの香りがふわりふわりと広がっていき鼻腔をくすぐる。
「勇気が出る魔法だよ」
勇気―――。
「さぁ、召し上がれ?」
カップに口を付け、こくりと飲み込む。
口の中に甘く温かい味が広がった。お腹の中がぽかぽかと温かい。
さっきまでの冷たかった心がじわりじわりと温度を取り戻していく。
「一歩だけ踏み出してごらん?」
オレはこくりと頷くとコーヒーを飲みほした。
「マスターの魔法すごいです。今なら何でもできそうな気がします」
「うん。がんばって」
オレはマスターの言葉に力強く頷いて喫茶店を飛び出した。
横山宗の場合-終-
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