元気の魔法 伊藤翼の場合

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元気の魔法 伊藤翼の場合

最近、宗の様子がおかしい。よそよそしいというか、不機嫌というか。 俺何かしただろうか? 小さい頃はいっつも俺が付いて回って、宗は迷惑そうな顔をしていたけど、 両親が離婚して妹を連れて母親が出て行った時、ずっと泣き続ける俺に、 「オレがずっと一緒にいてやるから寂しくないだろう?」 って笑う宗の笑顔は向日葵みたいだった。 俺は宗の笑顔が好きだった。宗の笑顔を護れるなら何でもしようと思っていた。 いつまでも宗の笑顔が俺の隣りにあるって、そう思ってた。 「翼くん、今日は一人かい?」 宗と二人で学校帰りによく行く喫茶店『Cafe月の雫』のマスターだった。 「はい。宗は今日補習で――。待ってるって言ったんですが帰れって言われてしまって…」 「あーそうなんだねー。じゃあ宗くんがここ通るまで中で待っていたら?」 マスターは気の毒そうに綺麗な眉尻をへにょりと下げた。 ありがたい申し出ではあるが、お店に短くはない時間居座るのもどうかと躊躇っていると、 「そんな流行ってる店でもないし、ゆっくりしけてばいいよ」 常連の北さんの言葉だった。 マスターは振り返り北さんをギロリと睨み、俺の方を向き直ると 「ま、そういうことだから、ゆっくりしていって?」 と苦笑い交じりに言った。 俺はお言葉に甘える事にした。
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