自信の魔法 小田敬の場合

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勉強が終わったら運動だ。 僕は先生を見送った後トレーニングウェアに着替えてジョギングをする。 食事量減らすだけじゃ痩せないから運動苦手だけど運動も頑張ってる。 でもぜんぜん痩せないんだ。 ごはんの量もっと減らさないとなのかなぁ・・・。 いつものコースをなんとか走り切って最後に行くのは喫茶店『Cafe月の雫』 僕のお気に入りだ。ダイエット始める前はケーキとか甘い飲み物とかどれもこれもすっごくおいしくてついついいっぱい食べちゃってた。 ダイエット始めてからもここに来るのは、ここの雰囲気も好きでゆったりした空間で甘くない紅茶を飲むのがつらいジョギングの後のご褒美と決めているからだ。 たまーに香って来る甘い匂いに負けそうになるけど、先生に告白するためだと思ったら頑張れる。 「敬くん、いらっしゃい」 笑顔で迎えてくれるマスターのルーク町田さん。 すっごくすっごく恰好いいんだよね。 僕もこんな見た目だったらすぐに先生に告白できたのかな? 「敬くん、何だか顔色が悪いよ?どうし――――」 くらり。 目が回った。 マスターが倒れそうになった僕をしっかりと支えてくれた。 「敬くん、しっかりっ」 「だ、大丈夫です……すみません…」 マスターに支えられ席につく。 「奥で休むかい?」 「いえ、本当にもう大丈夫です」 マスターが僕の隣りに腰を下ろすと僕の手を握った。 「え?」 「キミはどうしてそんなに無理をしているの?」 「――――無理、ですか…」 「僕はキミがうちの店でケーキやクッキーをおいしいおいしいって言って食べてくれるのを見るのが好きだったよ。可愛いなぁっていつも思ってた」 僕が……可愛い? 「うそ、です。僕なんてこんなだし、可愛いはずが、ないです」 「ううん。キミは可愛いよ。いろんなことに一生懸命で、笑顔がとてもまぶしいんだ」 「…………」 「キミは恋をしてるのかな」 「ど………して」 青ざめていた顔色が赤く染まる。 「恋ってさ人を天国にも地獄にも簡単に連れていっちゃう。でもそれってさ半分は自分の気持ち次第な気もするんだよね」 「気持ち?」 「そう。今敬くんは自分の見た目にコンプレックスを抱いてるよね?でも、僕は敬くんの見た目可愛いって思う。敬くんのお相手の人だって痩せてほしいなんて思ってないかもしれないじゃない。そりゃあ頑張る事はいい事だよ?でも、無理はダメ。敬くんは無理してる。だから身体が悲鳴あげちゃってるんだよ」 「――――はい…」 「よし、ちょっと待ってて」 キッチンに一度引っ込んでしばらくしてカップとティーポットを手に現れた。 ティーポットの中で茶葉が躍っている。 マスターは高い位置から踊るように紅茶を注いだ。 そしてポットを置いた後、その指から光る線が走る。 キラキラ、キラキラとまるで星が煌めくみたいに。 そのすべてがカップの中に吸い込まれていく。 まるで魔法みたい。 僕は目をぱちくりさせていると 「僕は魔法使いで、これは自信の魔法」 と、マスターはそう囁くと「他の人には内緒ね」とウインクした。 こくりと小さく頷いて、恐る恐るカップに口を付けた。 広がる香り、口に含むと幸せの味がした。 何だかじんわりしてぽろりと涙が零れた。
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