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勇気の魔法 横山宗の場合
オレの名前は横山宗、16歳。
最近、幼馴染の伊藤翼の周りが騒がしくなって面白くない。
下駄箱にラブレターとか放課後の呼び出しとか日常になりつつあるのだ。
小さい頃は一緒になって泥んこになって遊んだり、二階の窓から飛び降りて大けがして怒られたり、無鉄砲なオレに翼はいっつも泣きながら付いて回ってたっけ。
今じゃ考えられないけど、おねしょもオレより大きくなるまでやってたし、身体も小さくて大人しかったからいつもいじめっ子にいじめられてはすぐ泣いてた。
オレは自分も弱いくせに翼を護ってやらなくちゃって、自分より大きな相手とけんかして泣かされて親に怒られてたっけ。
今や誰の話?って感じに成長しちゃった。
いつの間にかオレを追い越していた身長。
オレをすっぽり包み込んでしまえそうな大きい身体。手だって大きい。
気が付くと低くなっていた声。
当然誰も翼の事をいじめたりしない。
何もかもが変わっちゃった。
オレはあの頃と何一つ変わってないっていうのに、オレの一番近くにいた幼馴染は今はとても遠い。
今では足引っ張りなのはオレの方。
それでも翼がオレの事を最優先させるから。
オレが一番大事だと言ってくれるからこんなオレでもまだ翼の側にいてもいいのかな?って思ってた。
――――昨日までは。
昨日オレとの約束をすっぽかしてオレの知らない子と楽しそうに歩いてるのを見てしまった。サラサラ髪の笑顔が可愛い女の子。
いつまでも成長できないでいるオレなんかもういらなくなったのかな。
約束をすっぽかされたのも初めてだし、オレ以外のヤツと二人っきりでいるのを見るのも初めてだったんだ。
そりゃあ告白される時とかはさすがにオレが遠慮して離れるけど、でもその後必ずオレのとこに戻ってきてくれた。
だけど、昨日は「おやすみ」のメールもなかったんだ。
今日も朝から何の連絡もないし顔も見てない。
いつかは翼の横で笑ってるのはオレじゃなくなるってわかってた。
だけどこんなに早いだなんて……。
「心の準備が間に合わないよ………」
一人で帰る帰り道、オレのそんな呟きはぽつりと零れて、消えていった。
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